伊勢丹の大西元社長の事実上の更迭騒動を見ていて「伊勢丹は相当に深刻だな」という印象しか外部の者としては残らない訳ですが、どのあたりにそう感じるかは別の回に書くとして、いずれにしてもアパレル依存度が高い百貨店が苦戦しているあたりに既存の業態の変革がいかに難産か、という事が象徴されていると思う次第。
そういった問題意識のある業界の中の人や、これからアパレル業界を目指したい、といった方にはぜひ読んで頂きたい一冊です。
あくまでも読書メモなので書評や感想は書いてません。読み進めながら気になる部分や大事なところを抽出しいます。
(疑問点や個人的な見解は赤字で小さく書いています。いつか別の投稿で拾うかもしれません。)
読書メモ :
「グローバリゼーションとデジタル革命から読み解くFashion Business 創造する未来」
著者 : 尾原蓉子 (繊研新聞社)
読む経緯と本書の概要
今年で3年目となる IFI ビジネススクールのカリキュラム設計の会議資料に向けた参考として学校より献本頂いたもの。
著者の尾原氏は旭化成工業株式会社(現在の旭化成株式会社) を皮切りに、1999年から2009年にかけてはこのIFI ビジネススクール (正式には「財団法人ファッション産業人材育成機構 IFI ビジネススクール」だけど長いので端折ってます) の学長を務められたり、2008年から2010年には株式会社良品計画の社外取締役を務めるなどのファッション業界の人材育成については高い見識をお持ちの方です。
海外での経験も豊富な氏による危機に瀕している現在の日本のファッションビジネス( 繊維、アパレル、小売り) に対する叱咤激励が鋭い考察とともに400ページ以上に渡り書き下ろされています。閉塞感や縮小感に悩まされているファッションビジネス業界に対して、社会の構造変化を的確にとらえてどのように変革を進めていくか、その為に企業や人はどうあるべきなのかを説いた力作です。
■読書ノート : 書評では無く、気になる箇所を引用しつつ所感をメモする
- 読む経緯と本書の概要
- 時代認識と市場環境の整理
- [1]ファッションビジネスを取り巻くパラダイムシフト
- [2]新しい価値創造
- [3]ファッションビジネスはどう変わるのか? 企業がなすべき事
- [4]グローバル時代の企業の課題
時代認識と市場環境の整理
- ファッションビジネスは成熟を通り過ぎてパラダイムを変革する時期に来ている
- 過去二年にアパレル大手4社で1600店舗が閉鎖
- SPAも20年が経過して制度疲労を起こしている
- 消費者が流行を追わなくなり、アパレル売上は3兆円から10.5兆円 (1991 > 2013) に減少
- 変革にはDisruptionが欠かせない。
- 背景にはテクノロジーの発展、消費行動の変化(デジタル化)
- モノの価値からサービスの価値に変わった
- 変革の中核をなすのは、
- ビジネスのデジタル化
- Eコマースとオムニチャネル(自社の)
- 顧客(個客)へのパーソナルな照準
- ビジネスのサービス化
- 変革の方向性として認識すべきファッションビジネスの潮流
- デザインの流行からライフスタイルへ
- 消費者は生活者へ、さらに自分物語の著者へ
- プロシューマー或はセルシューマーとして市民コマースの担い手に
- 選択肢の豊富さよりもニーズに合ったパーソナルなもの
- 価値創造は企業内部ではなく個客との間で創造される
- 所有からシェア、個人の財から社会の財へ
- 企業活動は利潤の追求から社会善と幸福な人づくりへ
■主要論題
[1]ファッションビジネスを取り巻くパラダイムシフト
・ファッションビジネスの中心はアパレルから小売企業や消費者に
→キュレーション、プロシューマ、セルシューマーの流れ
・個人が所有する私財から市場が共有する社会財(Social Goods) に変化
・消費財ビジネスにおける変化の潮流
- 人々の意識と行動の変化
1. New Normal = 「自分に本当に意味がある、価値があるものなら高価でも購入する。」
2. 日常的には「安価でも質の良いシンプルなもの」を志向する。
3. 背伸び消費から合理的な賢い消費へ。
- 浪費→倹約
- 過剰→ミニマル
- 虚飾→本質、実質
- 複雑→シンプル
- 間接→直接
- マス→カスタム
- 新品→古いものへの愛着 - デジタルテクノロジーの膨張
1. BtoCのネット販売が16兆円でスマホが30%を占める(2016.6)
2. ファッションのECは5657億円でYoY+6.3%(2015.7)
3. 探索・購入の利便性向上
4. 評価の拡散スピード
5. AI/AR、ML、IoTが後押し - ビジネスのグローバル化
1. 経済発展による中間層の拡大→中国とインド(12億)
2. マイクロファイナンシング、フェアトレード、エシカルビジネスが推進するBOP40億人の市場可能性
3. 越境ECとインバウンド - 企業の社会的役割の増大
1. CSR > CSVへ
2. ソーシャルビジネス
a. Ethical
b. Ecological
c. Sustainable
d. Re-Use
e. Re-Make
f. Recycle
・視点の180度転換
- 流行からライフスタイルへ
・アパレル(=流行)を売る→ライフスタイルを買ってもらう ( =価値観に合うものを提案し、体験して自分の中に咀嚼していく過程を支援する)
→ Lululemon Athletica Inc. - 主体は企業から個人へ
・消費者は「消費」だけでくなく、「作り手」、「創り手」、さらに「仕入れ手」、「語り手」、「売り手」にもなる
→ Etsy, Nyoploy, Polyvore - シンプル化・合理化・透明化
・卸型から垂直型、水平型、直販に進化
・垂直型の代表はSPA、最近の例ではWarby Parker。
・水平型とはCtoCに見られる「デザインする者」「生産する者」「顧客に向けてパーソナル化するもの」などがプラットフォーム上で結び付くことで売買が成立する。Etsy の他、Jet.comもこれに近い。 - オムニチャネル化
4-1.シングル→マルチ→クロスと進化してきてのオムニチャネル。
4-2.テクノロジーの進化と普及により生活者には「チャネル」の概念は無くなりつつある。
4-3.すべての接点は「情報・コミュニケーション手段」であり、個々のチャネルは意識されない。
4-4.個客・顧客セントリックを突き詰めるほどチャネルは不要になる
4-5.既存の百貨店におけるオムニチャネル実現ステップ例(ベルク百貨店の例) --- 27か月で実施
Step 1: EC基盤の構築
Step 2: POSの入れ替え
Step 3: モバイル対応の拡大
Step 4: 顧客データの統合
Step 5: 在庫の一元管理
4-6.アパレルでオムニチャネルに取り組む例 (VFコーポレーション)
a. シームレスな体験
→ 顧客のお気に入りはいかなる方法、場所、デバイスでも一貫性があり明確なストーリーが得られる
b. シームレスな在庫
→ スタッフも顧客も欲しいものが探せる。自店、他店、ネット、卸いずれも対象に
c. シームレスなデータ
→ オンライン体験のベスト部分を店舗に (リコールさせる)、売り場のリアル体験のベストをオンラインに。
4-7.オムニチャネルは顧客セントリックである為、成功するかどうかの本質的要因は企業文化に行き当たる
4-8.老舗メイシーズの取組み
・We are not department store, we’re 24/7 Macy’s
・売り場でのモバイル活用
・ビーコン技術によるプッシュ
・モバイルペイメント
・店舗を配送センターにする → ストックポイントの変更。
・RFIDによる在庫管理の精度向上
・Click & Collect
・Show rooming
・即日配達
・店内Kiosk 端末
・スマート試着室
・画像検索の開発
・MAGIC Selling Concept
--- Meet and Make a connection
--- Ask questions and Listen
--- Give options, Give Advices
--- Inspire to buy and sell more
--- Celebrate the purchase - 利益追求から社会貢献、社会的問題の解決へ
・利益を上げる」だけではなく「世の中のためになる」事を両立させる考え方
・Walmart : Save money, Live well, DSW (Dress for Success Worldwide)など。
[2]新しい価値創造
- ファッションビジネスが衣服やハンドバックや靴などの身に付けるものを製造販売して利益をあげ、発展してきたのはその活動がそれぞれの時代の消費者(生活者)が求める「新たな価値の創造」を行う事が出来ていたから。
- 競争の激化、海外からの参入などの環境変化以上に「成熟し物量だけでは満足できないレベルに達している顧客の期待」に応えられていない事が問題。
(!)成熟以外にファッションに対する低関与化の傾向もあると考えられるが、この点は白書など定量的・定性的なデータを当たる必要がある。
(!)相対的に低所得層と高所得層におけるファッションに対する価値観の変化もあると推測されるが、そのあたりの分析は本書では言及されていない。
- ファッションビジネスにおける価値創造の進化
2000年代に入り価値創造の中心は売り手から買い手に移行。(川上である製造から川下である流通や小売りを経て生活者に至る)
(!)私見: これは社会全体が延期的になっている事を示しているかも。
各年代の主要プレーヤーが生み出した価値は定着するが、時代とともに内実は変化し、濃淡も変わるという前提の表である。
- これまでの価値創造
マズローの欲求五段階仮説に即して発展してきたと考えることが可能。
(本書では「説」としているが、正しくは「仮説」である) - 現在の価値創造は自己実現の段階にあると考えられる。
そして、この自己実現は知的欲求である「真」、美的欲求である「美」、他の自己実現を助ける「善」という階層を内包している。
(!)私見: ただし、この考え方ではBOP市場の勃興は段階の進行が遅れている事になるが、そうするとBOPの需要の根底にあるものがかつての先進国のそれと同一である事までは説明しきれない。 - 生活者の視点で見た場合、価値創造は二極化が進む。
1. 日常を快適にするもの
2. 特別な喜びを満たすもの
(!)私見: この価値の二分化の考え方はマーケティングの二分類と等しい。「感情型マーケティング / Emotional Marketing 」と「機能型マーケティング / Functional Marketing」のそれである。また、二極化自体は消費者内多様化を現わしていると考えられる。 - ここで改めてファッションとは何か?
・変化が生む新鮮さとその創造
・人間の美しく、魅力的でありたい願望
・社会や時代の反映
・個人の生き方、特に自己実現(Self Esteem)である - ファッションの意味が変わる
・ファッションの民主化(特権階級から一般庶民へ)
・自由化(肉体的あるいは社会通念の束縛からの解放)
・日常化(コモディティー化、霽と褻の区別がなくなってきた)
・個人化(企業から不特定多数への働きかけであったものが生活者自らがその価値観で選ぶようになった) - ライフスタイルがファッションになる
・流行からライフスタイル(魅力的な装いと生活の仕方)に変化した
・感度の高い顧客はトレンドより自分のライフスタイルやテイストの中で新しい興奮を求めている。例としてアンソロポロジー。
・ファッションに大型のトレンドが生まれにくくなったのも個人化が進み、トレンドの芽がライフスタイルによって拡散し、個人によってアレンジされるようになったから。
(!) この点は情報の非対称性が成立しない事を意味しているといえる。 - 量産品や類似品からアート、クラフト、職人芸が新鮮さとして台頭
(!) この考え方自体が「トレンド」的である点が疑問。
トレンドが消費されるのではなく、価値観に沿うトレンドは要素として引き続き咀嚼されていくという理解。一方で、ライフスタイルを表すものがファッションだけでは無い点にも配慮が必要。さもないと同じTシャツのザッカーバーグや毎朝マクドナルドのバフェットなどの存在が説明できない。彼らはファッションには低関与だが、ライフスタイルとしてそこに一貫性(本人の内的な合理性)が存在している点が「単なるケチや食音痴」とは違うところと言える。 - 所有しないで楽しむファッションが台頭
・ミレニアル世代(1980~2000生まれ)にとっては、シェア、レンタル、再販などは当たり前のものとなっているので、製品価値よりもサービス価値が重要。
(!)このトレンドがある為、前述の垂直型や直販傾向が強まる。また、小売の価値向上の機会もここにある ( =アソートメントやキュレーション) - 市場を拡げる3つのけん引力
これからのファッションの価値創造は「流行や売れ筋を追うだけではなく、時代や社会の変化に合わせて自社ならではのオリジナルな価値を創造する」事によって達成される。具体的なイネーブラーとして筆者が提示するのは以下の三つ。
1. High Style: 完成された美と技
・審美的・美的価値の創造にクラフトマンシップが合体するのがニューノーマルの価値。
・優れた価値を内包する製品をいかに顧客に「見える化」するかが課題。商品やブランド、店舗が飽和状態な中で、小規模の企業や工房がチャネルを通じて発信するのは限界がある。
・デジタルを活用する工夫がまさに必要な領域。
(!) 価値を棄損するリスクもあるがチャネルに「見つかる」事もビジネスとしては必要か。
2. High Performance: 優れた機能と性能 → ここが成長著しい。
・ライフスタイルの変化が牽引する。健康な身体や生き方を志向する為の機能や性能の価値。
・ライフスタイルそのものを推進する事で、価値観に対するフォロワーも生まれる。その為に「体験の場」は必要になる。
・技術開発が伴う場合は投資回収の為に座組み(開発・量産・販促)が大掛かりになるので、水平的なコラボレーションが有効。
3. High Devotion: 個人の嗜好と思い入れ → これから重要なところ。• ・個人の嗜好や主義主張に合致する個人的、情緒的価値
・個人主導故にプルが重要。ある程度絞り込まれた選択肢を提示できるかどうかが基本。
・そのうえでCtoCのプラットフォームの活用を促すなど「広まる」場所に誘導できればビジネスとしてスケールしやすい。
[3]ファッションビジネスはどう変わるのか? 企業がなすべき事
- テクノロジーが拓く産業構造を取り入れる
1. Air BnBやUVERに代表されるDisruptiveな企業は「所有しない」事でその価値を広めた。
(!) それはInnovationではあるがInventionでは無い。例えばドローンやGO Proは新市場を作り、産業のすそ野を広げたり、応用を促したりする事で既存の市場の拡張にも寄与している点に違いがあると考えられる。
2. 15-20年先を見通すことは難しい。AI, Connectivity、IoTが新しい変革をドライブする事だけは押さえつつ、3年以上先の事を予測することに汲々としない事。
3. ファッション産業の新しい構造は次の潮流により形成される
・ 人々が求める、より人間的で情緒的なつながり、自然との共生
・テクノロジーが可能にする自動化、機械化、無人化、人間の活動のアルゴリズム化 - ファッションビジネスの未来展望
・Retail Revolution
米国小売協会が2013年から継続して強調しているDisruptionを促すメッセージ 参考 : http://nrfbigshow.nrf.com/recap
・サイバーと現実の融合
狩猟→農耕→工業→情報と進化した先にあるサイバーと現実が融合した超スマート社会を目指すもの。具体的には、
1. ネットワークで働く人が企業で働く人より多くなる
2. 3D Printing とAIが生産とデザインを分散型 (現場型)にする
(!)ここも社会の延期化で説明可能か。
3. モノづくりとデザインのスピードがリアルタイムになる
4. 3D Printingにより素材の単価が劇的に下がる
(予測ではすべて1kg = $2 )
※ロジックが記載されていないのでソースにあたって理解する必要あり。
5. 先進国での製造が低コスト化する
・Technology
・IoT = データのデジタル化と蓄積がICTならば、IoTはアナログプロセスがデジタル化され、人間の介在なしにネットワーク上で接続されるようになる状態。
誰でも使えるテクノロジーなので、発想と行動次第で生産性の向上、価値創造に結び付けられる。(!)人とモノとコトを結ぶ。
・AI = 人間に代わって知的労働を行う。業務効率や商品開発につなげるAI活用 (IoTとも親和性高い) と、Deep Learningを活かした「物事を認識する際の要素(特徴量)の学習」がある。
・3D Printing = 生産の短期化、低コスト化、市場近接性を促すのみならず、ボディスキャンとの組み合わせて個別最適などが可能になる。
・フラット化する商品企画・生産・販売 (TARの同時進行)
*Textile, Apparel, Retail
・多段階流通
ボトルネックが多い。長いサプライチェーンは競争劣位につながる。
・卸売りから垂直化へのシフト
a. 垂直統合 (ZARAのように製造・企画・小売が統合されている)
b. SPA型 (SPAやセレクトショップ。製造と企画・小売で分化)
c. ファクトリーブランド型 (アパレル自家工場型、製造・企画と小売で分化)
・水平化モデルへの移行
BtoC / CtoC を前提にする。事業の主体者(企業、個人)を取り巻く以下の4つの基本機能が時計回りの位置取りで存在し、相互に作用しあう。つまり業態のバウンダリーが希薄化する状態。
1) 企画・デザイン・MD
2) マーケティング・商品提示・販売
3) 物流・宅配
4) 製品化・生産・技術開発
・個人がデザイナー/マーケッターになる
a. 日常生活や普遍的価値を持つものは工業製品として引き続くか、エモーショナルな価値を持つものは個人が影響力を発揮する。
b. 一点あるいは少量生産でも確固たるニーズをつかむ。趣味ではなくビジネスとして成立するようになる。
- 企業が取り組むべき課題
・時代の再確認
1. 服を買わなくなった顧客、あるいは厳選する購入態度
2. 情報テクノロジーの個人への浸透
3. 強まるパーソナル化への要求
・課題の類型化
1. デジタル活用、ECの展開
・個客はWebと店舗を行き来するのが当たり前
・ECは唯一の成長チャネルである。越境ECは機会でもあり脅威でもあるが、バウンダリーが無い前提
・ECチャネルは販路でありメディアでもある
・人の感情の動きに価値があり、それを支援するのがデジタルテクノロジーである
2. 自社流オムニチャネルの構築
・消費者はMoving Target
・オムニチャネルの完成形というものは存在しない。
・「チャネル」というものに対する意識が希薄化しているのは事実。
・本質的には顧客の利便性を最優先する事で接点が増え、関係が深まり、LTVが最大化していくようにデザインする
・コスト効率の良いECと、経験価値を高めやすい店舗の双方の利点を最大化する事が高い収益性につながる。
(!)故に、O2O (Online to Offline あるいはその逆) と称して生活者の導線をコントロールする発想に陥らないよう注意。
・ECにおける商品力と買い物体験で留意すべき点として以下。
i. ネットで検索できる商品量と質(検索のタイプ)
ii. 商品画像の質→物撮りのみならずシーンで見せることも含めて
iii. 商品カテゴリは売り手視線ではなく、買い手の視点で
iv. サイズとフィットに関する情報を充実させる
・DOMレベルでの在庫管理 (DOM : Distributed Order Management)
3. パーソナル化の取組み
パーソナル化の三つのタイプ。
i. カスタムメイドの商品やサービスを提供する
ii. 企業が顧客へのアプローチをパーソナライズする
a) Big data , AI を使った分析によるターゲティングの個客化
b) 個客接点情報の蓄積による焦点の明確な提案
iii. 顧客が自分の欲しいものを容易に見つけられるようにする
実現している例として、Stitch Fix (Effortless shopping for Executive), Keaton Row, Stylit’, Everywear, Trunk Club などが挙げられるが、そこでのポイントは以下の二点に要約できる。
1) 顧客の主体性重視の提案(わからない人に提案するのではなく、自らのライフスタイルを分かっている人に提案する)
2) 個人のライフスタイルを把握して、手持ちのアイテムとの掛け合わせで新しい価値を産む一点を提示する
4. ビジネスのサービス化
繰り返しになるが物売りからサービス化。「所有の喜び」より「使用により生活の質を高めること」を重視するのが現代の消費者。その時にビジネスとして取りうる手法に次のようなものがある。
i. レンタル・シェア
ii. 無料試着・型見本による自宅のショールーム化
iii. キュレーションによるパーソナルスタイリング
iv. 製品のケア(保管と修理)
5. 個客セントリックへのパラダイムシフト
前段の流れからの必然的な帰結として、
・ファッショニスタの起業は顧客がパートナーとなる
・サブスクリプションモデルの台頭(BrichBoxやGwynnie Bee )
- マーチャンダイジングとマーケティングの革新
・不特定多数を対象にした最大公約数的なセグメンテーションからマイクロターゲティング、個客志向へと変化するので、マーチャンダイジングとマーケティングの連動、融合が必要。
・価値観はファストからスローにシフト。よって本質的な価値の追求と個客ニーズに応えるロングテールがフォーカスされるので、マニュファクチュアリングとの連動も重要になる。
(!) そのためマーケティングにおいてはエンゲージメントが重要視されることになり、商品やサービス同様にSustainable であることがカギとなる
・マーチャンダイジングの5適 ( 適品・適時・適価・適量・適所)もそれに従って変化する
[4]グローバル時代の企業の課題
- ファッションビジネスの中核となる潮流は、グローバル化、デジタル化、人間中心である。グローバル化については次の二択がある。
1) 日本にいたまま高付加価値な製品・サービスを買いに来てもらう
(!)インバウントはこれが中心。海外からの検診需要なども含めて。
2) 日本から外に向けて打って出るか - 成功するための鍵
1. 明確な企業理念に基づく戦略の実行
模倣が容易なファッションビジネスにおいては、独自性の陳腐化は速くなりがちである。1シーズンではなくファンとしての顧客の獲得が必要
2. 優れたブランドとしてストーリーを持つこと
世界的な認知と尊敬を獲得する第一歩
3. ビジネスモデルをオペレーションする能力
店舗においても画一的ではなく、各店舗が地域とそこの顧客の特性に応じたマーチャンダイジングを行い、それを支援するロジスティックが求められる
4. (2に類似するが)オリジナリティを持つこと
知財リスクの回避とバイヤーへのアピールを果たす
5. 異文化対応力
6. 人材のダイバーシティ
7. 環境・社会・カバナンスの意識 - ブランディングと独自性のあるポジションの獲得
「ブランディングは精神的な構造を創り出すこと、消費者が意思決定を単純化できるように、製品・サービスについての知識を整理すること」(ケラー)
(!)このケラーの定義は企業による消費者に対する約束事がサインやネームを超えた本来のブランドの持つ意味であるという前提の理解が必要。
・ブランド自身が「何者であるか」を語れるストーリーテリングが大事であり、要素として以下を持つ
1. ミッション
2. ポジショニング
3. パーソナリティ
4. ブランドプロミス
5. ブランドアイデンティティ - 日本企業が取り組めること
・ファッションの輸出は文化の輸出であるとした場合、日本の提供できる価値は「日常生活を豊かに楽しく便利にする。ただし合理性や機能性だけの追求で終わらずに、情緒や感性を大事にする」といったものが比較的当てはまりやすい。諸外国からの評価としても妥当。
・文化を発信する事と世界に売る事では難易度が違う。文明技術の輸出以上に困難さを伴う場合が多い。なぜなら共感が必要で、単体ではなくコンテクストが共有されないと成立しないので。
・日本は「外国に着想を求めて文化を融合させてポストモダンを実現する事に長けている」(ダラス・マクグレイ、GNC Japan’s Gross Natural Cool, 2002 /Foreign Policy)
・日本的なコンテクストの例
1. 四つの美意識
「雅」(上品で風流)
「粋」(垢抜けた自然な色気、人情・世情に通じる)
「繊」(細かくてしなやか)
「素」(無駄がなくシンプル)
2. 用の美
実用性と無駄をそぎ落とした美しさの合体
3. 「もったいない」精神
それを支える知恵と技術はSustainableに通じる
4. 自然との共生
自然を生活に取り込み、「小さきもの」「かそけきもの(幽き = はかなく壊れすやい、何気ないもの)」を「うつくし」とする感性。例えば大麻布、笹和紙、藍染めなど。
・豊かさが「お金をたくさん持っていること」や「高級なものに囲まれている」ではなく、快適で楽しい日常と、安心して消費できるモノやサービスに強みがある。以下がその構成要素。
1) 優れた要素技術
2) ユーザーの立場に立った問題解決や工夫
3) 真面目で真摯な商品開発姿勢
4) 一過性の宣伝ではなく地味で地道な販売努力
5) ハードとソフトを合体したハイブリッドなアプローチ
6) 妥協しない高度な品質
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という事でメモはここまで。
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