「デジタルマーケティング」という呼び方は既に古いのではないでしょうか、という事を少し丁寧に今年の予測として別記事に書きましたが、この「20年後にECが無くなる」という見出しにも強く共感するところでして、何となく関連する知人のFacebook投稿を見ていてムラムラしてきたので書きかけのネタをすっ飛ばしてこちらを先に書いちゃいましたよ、と。
このAmazon Goは小売におけるパラダイムシフトという感じで今後の展開にワクワクしています。それはもう、ひと月たらずで飽きたポケモンGoの比では無いです。
この動きを「やっぱりECもオフライン店舗って必要なんだよね」とか見ている企業がいるならば、そこは時間の問題で憤死するんじゃないかと思います。既存の流通、とりわけGMSやコンビニといったプレーヤーとの競合という文脈も当然ありますが、スケールとしてはそういう既存の業態や業種の垣根を超えている話なのでないかと。
以下の推測&妄想がどれだけ当たっているかは保証しませんが、自分の見立てとしてメモしておきます。
❖オフラインが意味するもの
アマゾンが実店舗を通じて品ぞろえと買い方の多様性に対応する事は、これまでアマゾンが強みとしてきたECでは対応出来なかった領域がカバーされることになるので、利用者にとってもっとも分かりやすい付加価値です。
ちなみに、ダイヤモンドオンラインでも記事が出ていまして、その中でこんな記述がありました。
日本の消費者は商品の質や商品政策などを抜きにして、「レジでの決済が不要」という利便性だけでは選択しないとみられる。
この見方に関して私はダウトです。
ICカードと自動改札がデフォルトになった現在の鉄道輸送を前にしてこの見方は説得力を持ちません。
また、JCBのリサーチによれば全ての年代で36.7%が「キャッシュレス化を実感している」という結果も出ています。
もちろんカード会社の調査*1ですので割り引いて読まないといけませんが、キャッシュのやり取り、レジ行列からの解放、といった利便性は買い物行動を変えるドライバーとして十分なポテンシャルを秘めていると思います。
一方、リテールとしてのAmazonを見た場合、このリアル店舗の動きが加速していくとECとオフラインという相補的な関係もあまり意味が無くなるのではないか、なんていう妄想も抱いています。その理由は次のチャプターで。
❖延期がさらに洗練されて、結果的に投機の精度も上がる
流通論を学んでいる方には馴染みのある「投機と延期」ですが、最近の流通においては「延期」を洗練させる事が重要な課題でした。一方で、延期を手堅くすればするほど縮小均衡するリスクも出てくるので、意図的に投機して実需を産み出すような動きも散見されます。
アマゾンの強みは、膨大な品揃えと物流を世界的に展開する事で、この「延期」の洗練に関しては相当な次元でノウハウを蓄積していると考えられる点です。内情を知る術が無いのであくまでも推測に過ぎませんが、少なくとも取り扱いデータを基に予測を高い精度で実現する事は可能でしょう。
その一方で、最近激しく推している「プライム」。これは消費者向けのJITを実現するべく自らの物流網に対する挑戦、という捉え方が主流かと思います。
これを流通論的な視点で見た場合、個々のメーカーが持っている「投機」能力を査定しているようにも見えてきます。つまり、完全な予測が不可能な需要の変化に迅速に対応できる企業やブランドはどこか、理論的にはそこがもっとも商機を捉える可能性が高い企業であり、その企業が持つ投機能力の高さを自らの延期能力で確実に補完する事が出来ればグローバルなWin-Winが出来上がり、他の流通業に対する強力なアドバンテージとなる、という理屈です。
既存の流通業はこうした需要予測、品ぞろえ提案、小売配送の負担といった機能を提供する事でチャネルパワーを発揮してきた訳ですが、世界的な「網」をもっているAmazonと取り扱っているトランザクションの量で互角に太刀打ちできる国内流通は多分いないのではないでしょうか。ビックデータとIoTの世界では持っているデータ量、接点の量が精度を左右すると思うので、この差は大きいです。
各GMSなどがプライベートブランドを通じて「物を売る」事に対して垂直的に成熟させてきたのに対して、このAmazonのオンラインとオフラインを融合していく動きは、あくまで立ち位置はリテールとしてのオムニチャネルですが、消費者の購買行動に併せて投機と延期を自在に行き来できる水平的なインフラ能力(Capability)を持ちつつある事が本当の強みなんじゃないかな、と思うのです。 少し具体的な例を想像してみます。
Amazon GO で日用品を買う場合、
- 「帰り道に立ち寄って買う」
- 「昼休みにECで買って最寄りのAmazon Go から配送する」
というオプションが仕組上は容易に成立するからです。今の所の報道を見る限りでは前者の提供が主のようですが、投機と延期の両方を高い次元で両立させられれば、こうした『買い方の柔軟性』(Spontaneous Shopping と呼びたい) を発展した形で提供可能になると思うのです。
さらに想像を膨らませると、「デリバリー」という意味ではオフラインとECの時間差がゼロに近づいていく流れであると考えた場合、計画購買と非計画購買という伝統的な購買行動の分類に対して新しい視座を提供してくるのではないか、なんてところまで考えてしまうくらい面白い話だと思うのです。
❖メーカーにとっては良い話
ではリテールを利用する側のブランドはどうするのでしょうか?
自分がブランド側だったらチャネル施策の中心にAmazonを置きます。なぜなら、
- 世界的な需要予測も協業可能 (on AWSで)
- 消費者に対する買い方の多様性の提供 (プライム 、Go、ダッシュ etc)
- 5%還元のプライムカードなどインセンティブの仕掛けも作りやすく
- Amazonの他のサービスのデータと連携させる事で自ブランドのユーザのビヘイビアを分析する事も出来る
といったベネフィットを考えると、もはやリテールというよりはマーケティングパートナーと考えた方が良いレベルです。でもって、この「売る」為の仕組みにフォーカスがあたる事が多いAmazonですが 、
- メディアとしての広告ネットワーク
- 消費者のPOPでカギを握る検索ボリュウム
- マーケットプレイスの存在
といったものを考えあわせると、安っぽい言葉ですがライフサイクルがある程度Amazonの経済圏の中で完結してしまう点です。
❖既存リテールはどうするべきか?
こういったAmaoznの動きを妄想込みで見直していくと、日本の流通業も頑張ってほしいのですが、視点がだいぶ違うのかもしれません。
ローソンが銀行業参入という話が出ていましたが、今さら銀行というオワコンを取り込む事にクエスチョンマークです。ビットコインの取り扱いや外貨両替など、未来を感じたり「そこ、誰も面倒がってやらなかったよね」といった業界慣習的に禁じ手だが消費者にとって価値がある施策が出てくれば、その店舗網も含めて面白い局地戦になりそうです。
が、記事を読む限りではセブンを模倣して追いつく ( = 手数料戦争勃発) というのが当面の流れみたいですので、それだけだとあまりにもドメで寂しいですね。
その内、自分の冷蔵庫の残り物と総菜売り場のアソートメントに基づいて、料理上手の契約した個人がMR(VR) で登場してレシピを提案、みたいな購買環境になるのかな、と思っています。
その時、小売の店員は何するんでしょうね。レジを打つ必要もなく、品出しは自動化、配送はUBERやドローンが代行、とかいう時代に。
働き方改革の文脈で「パートの正社員化」といったあたりをウロウロしている内に、そもそも小売業として求められるファンダメンタルが変わってしまっているような予感しかしない今日この頃です。
*1:「キャッシュレスとデビットカード利用意向に関する実態調査2016」http://www.global.jcb/ja/press/20160322140500.html