軽めの仕上がり (はてな編)

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アパレルの進む道はクラフト型&国内回帰 という件

こちらのコラムが面白いので、外野ではありますが拾っておこうかと。

❖供給過剰という過ち

www.apalog.com

 

曰く、アパレル業界の不興は「供給過剰」であるというのが論であります。

四半世紀で供給量が2.33倍になったのに消費量は18%しか伸びず、最終消化率が96.5%から48.9%に激落した

 とありますので、それが事実だとすれば相当に酷い話です。

 一般的には、ここで消費の伸びが弱まっているのは何故か? という方向に目が行ってしまうところですが、この方は消化率の低下こそが元凶であると指摘されています。確かに数字のインパクトとしてはそれが大きいです。

 仮に売れる数が一定だとして、消化率が50%を切るまで低下するという事は、ものすごい在庫になる訳ですから、まともな会社ならどこかで気がついて改善するはずですね。ところがアパレル業界ではそういう風にはならなかったと。

 売れるためのParityが低価格になってしまい、それを実現する為に量産効果を追求した結果、今の状況に陥っている、という事のようです。

 でもこれはマーケティング学を学んだ事があれば聞き覚えがある「High Pressure Marketing (高圧型マーケティング)」とほぼ同じな気がします。1920年代に勃興したHigh Pressure Marekting では、大量生産による量産効果で標準化した低価格品を消費者のニーズとはかかわりなく供給し続けるモデルです。

 このパターンの成功例として引き合いに出されるのがT型フォードですが、そのフォードが市場の変化( 消費者のニーズの変化) に対応出来ずにシェアトップの座を引きずり降ろされた点も含めてマーケティングの世界では歴史的事例 & 教訓です。

 おそらくアパレル業界の中の人からすると、さすがに「消費者ニーズは意識していたわい」と思いますが、ビジネスモデル全体としては観れば、100年前と似たような構図に陥っていたのかもしれないね、という指摘です。

❖消費者内多様化の先に

 消費者の価値観が時代とともに変化する事は事実だし、「消費者内」だけでなく「消費者間」という視点で見ても、クラスタが複雑化し、分断化ている事も実感的には間違っていないと思っている。

 アパレルなどの衣料品は、嗜好品と日用品の両方に跨るカテゴリだと思うが、おそらく苦しんでいる要因としては次の二点が考えられるのではないかと勝手に思っている。

  • 嗜好品に対する知覚が変化してきている
     嗜好品は買回り品でもある訳ですが、低成長時代に入って久しい世の中においては、計画的に買う以上、シーズナリティは極力排除して「長く使えるもの」に意識が向かう事は考えられます。その上で、ファッションが本来持っているトレンド感はマイナスに作用してしまうのかもしれません。
     なぜならファッションとは「ある時点において広く行われているスタイルや風習 (wiki)」と定義づけられるので、消費者内・消費者間多様化が進んでいるとすれば、ファッションが担う均一性や同質性は低下していく事になるからである。おそらく後者が増えているのではないかな、と。
    (これ完全に推測ですので根拠ありません。)

  • 「買う」という行為の変化
     流行が業界によって計画的に作られるものである以上、それに素直に従うセグメントがいる一方で、そこから外れようとするセグメントも存在するはずです。前者はなるべく低価格でトレンドを取り入れつつ、もろ被りは避けたいというタイプで、後者はトレンドからは距離を置いて自分の価値観を重視するタイプでしょう。そのどちらにも偏らない人がおそらく「おしゃれ」なのだと個人的には思いますが、トレンドの取り入れ方において「買う」方法にも多様性が産まれ、かつ「買わないで借りる (消費する) 」というオプションもここ数年で一気に普及してきていると思います。
     講座でも触れている話ですが、模式化するとこんな感じ。

    f:id:takao_chitose:20161031094855p:plain

     上図はファッションでもなんでもよいのですが、「欲しい」という欲求の昇華方法としては「買う・買わない」の二択が永らく続いてきましたが、冒頭の大量生産による供給過剰で結果的に「売り方」の方法が増えた事、さらには、どうしても「買えない」あるいは「買いたくない」というニーズに対してレンタルが普及しているのだろうなぁ、と。昔はドレスや晴れ着に限定されていましたが、年に一回着るかどうか、みたいなものであれば確かにその方が合理的な選択であると私も思います。
❖この先の方向性

 では、この先どうすれば良いのか、という点についてはとにかく「縮小することで供給過剰を調整して、リードタイムに起因するリスクを軽減すべし」と説かれています。人口が減少している日本において「縮小する」というチョイスが適切なのかどうか私には分からないのですが、その後の点については圧倒的に正しいと思います。

 コラムの中ではDellやトヨタの成功例を引き合いに出しつつ、ZaraなどのSPAもその方向にあると指摘されています。引き合いに出されているDellに勤務していた経験だけで言えば、サプライに関してはとてもシビアに予測をしていたと思います。ただし、こうした企業群はいずれもグローバルスケールを追及しており、その意味でインダストリ型に分類されるのに対して、このコラムで指摘しているのはクラフト型への回帰です。必ずしもJapan Quality的な感情面だけではなく、収益構造の立て直しも含めての攻めのダウンサイジングという点がポイントなのかな、と思っています。

  これと似たような文脈なのかもしれないな、と先週のWBSで報道されていた紳士服の青木商事の試みが興味深かったです。

・ワールドビジネスサテライト 10/26 

www.tv-tokyo.co.jp

 

 とかくアパレルが安きに流れる中で、「カスタマイズ」というこだわりの反映が20代の消費者の嗜好に合っているのでは無いか、という話。
 「安いものが良いもの」では無くて、「納得いくものが良いもの」。そこに惜しみなくお金を使うというのは、消費行為の形態が量から質に転換している事の証左なのかもしれません。
 まだこの試みが成功している訳ではないので結論づけるのは早計ですが、軽々しく 「Purchase Expereince が大切」なんて事を私も言ったりしますが、いつの間にか "Purchase" に寄ってしまったり、逆に接遇や空間といった目に見える部分に寄り過ぎた"Experience"だけになっている、という事が起きているかもしれません。

 ❖何となくまとめると
  1. 大量生産 / 大量消費を前提としたHigh Pressure 型のマーケティングからまだアパレル業界は脱却できていないのでは無いか? 
  2. 量的な需給ギャップが結果的に事業の収益性を悪化させ、ブランド価値を毀損しているのであれば、そこをシュリンクさせる事で再生を図れるのではないか? そのようにしても現下の利益率を考慮すれば成立するはず。
  3. ただしグローバル化を前提としたインダストリー型のモデルであればサプライの最適化に向けた投資が欠かせない。今取り得るオプションとしてはダウンサイズしてでも国内回帰してクラフト型で適性在庫を維持しながら収益改善する逆ベクトルも検討されるべき。
  4. 消費者の多様化を前提とするならば、成果物をPurchae に取るのではなく、Experienceにもお模式を置く働きかけが必要ではないか? 
  5. 上図のような所有から消費の流れの中で、PS Dept.のようなAIとMLを活用したサービスが一定の普及を果たすときに、店舗とは何か、人的サービスとは何かというさらに厳しい問いを突き付けられる訳で、そこはもはやアパレルの問題というよりは街づくりの問題に等しい事になってくるのだろうなぁ、と。

面白いコラムだったので色々と思考実験できてよかった。

 

※10/31 20:26 typo修正