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テレワークは業績にプラスか? 等

 業界の巨人が廃止

 しばらく前にYahoo!がテレワークを禁止して話題となりましたが、つい最近もIBMが禁止を発表するなど、働き方改革の本丸みたいな位置づけのテレワークですが、ビジネスへの影響などを考慮して取りやめる企業のニュースも見かけます。今回は、最近廃止を決定したIT業界の巨人IBMの以下記事なども踏まえてのメモです。 

IBM: 自宅勤務制度の廃止を従業員に通告

http://newsln.jp/news/201702100743590000.html 

元記事はこちら

www.theregister.co.uk 

 最初に断っておきますが私はテレワーク賛成派です。ただし、「リモートワークやテレワークに賛成 or 反対」という二項対立でこの問題を捉えていないので「テレワークを認めない会社や精神風土(メンタリティ)は良くない」とは考えません。業種・業態・職種、そして企業の成長過程や企業文化など様々な要因が考慮されて就業規則というルールと企業文化は決まってくると思うからです。
 ただし、現代社会は個人の能力に依存するところが多なので、多様性や柔軟性に優れた労働環境を通じて個人の能力が発揮されるのであれば、テレワークのようなオプションは積極的に検討されるべきである、というスタンスです。経験上、テレワークという制度は少なくともホワイトカラーにとって時間の有効利用でアドバンテージがある事は否定しにくいと思います。

 なぜ、働き方の多様性や柔軟性を担保しておくことが個人の能力を引き出す事とは別の意味で企業にとって重要かというと、単純化やマニュアル化が可能な労働集約型の仕事は機械に委ねる時代になっているので、優れた発想や行動力を持つ個人を惹きつけるインセンティブにもなり得るからです。

 一方で、効果測定しやすい「テレワーク導入に伴う従業員の満足度」とは対照的に、「テレワークを導入した事で業績が上がった」という因果関係を証明する事は難しいと思います。さらに、今後サービス業の比重が増していく社会構造である点を考慮すると、そもそも業務が在宅で成立する業種・職種が限られてくるので、そういった事に対する不公平感のような世論が生まれる可能性があります。 

IBMが辞めた理由

話をIBMに戻します。
同社がテレワークを廃止した理由が色々と書いてありますが、印象的なところだけピックアップすると、

There is only one recipe I know for success, particularly when we are in as much of a battle with Microsoft and the West Coast companies as we are

とか

there is something about a team being more powerful, more impactful, more creative, and frankly hopefully having more fun when they are shoulder to shoulder. Bringing people together creates its own X Factor.

など。
 前者はMicrosoftの 他、西海岸系のコンペティターと戦う上では肩と肩を並べてチームが働かないと駄目である、という話。「働き方は自由でいいんじゃない」という文化を持つ西海岸と戦う際に同質化を取らず、異質化で攻めていく訳です。
 後者は肩を並べて働くことでチームがよりパワフルに、クリエイティブに、そして強いインパクトを生み出しながらもどこか楽しい雰囲気をもっているような状態になると考えているわけです。だから皆が一つ所に集うことが大事なカギだと考えている、と。実際、こんなことも書かれています。

I've spent a lot of time thinking about this, and a lot of time working with teams from real-estate, finance, HR, operations, the geo leaders, the marketing leaders

 自らリモートワークをしてみて、Watson にも相談してみて( 皮肉じゃなくて絶対していると思うので) 、その結果の判断なのでしょう。

テレワーク制度とビジネスの成績の関係 (Yahoo! Inc.編)

 ここで改めて確認しておきたいのはかつてテレワーク禁止を決定して話題を呼んだIT業界の別の巨人である米Yahoo! Inc.の展開です。

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Yahoo! Finance で同社のデータを見てみました。文字が小さいので補足すると、
 ・箱ひげはYahoo Inc. の株価を2012年のMarissa 就任時から2017年3月3日まで。
 ・青い線はNasdaqの平均
 ・赤い線は30日の移動平均
 ・左上の表は2011年から2015年までのKey Financial Data をAnnual Report から引用
 ・グラフに付けた吹き出しは特記事項を明示的にしています。

 Yahoo Inc.が在宅勤務禁止の発令したのが2013年3月ですので、そこからの推移を確認することを意図しています。過去3年にわたり株価が底を打ち続けていたYahoo! Inc. のCEO職を引き受けたMarissa からすると「社内で何が起きているのか」を掌握する事が重要な課題の一つであった事は想像に難くありません。その意味で、未来永劫どうするかという極端な話ではなく、企業戦略的には正しいチョイスだったのでは無いかという事が株価の推移からは見て取れます。
 その後2015年は一年かけて株価が下がっていく訳ですが、この時期はアドテクの進化やSNSの更なる発展、スマホやタブレットなどデバイスの多様化といった環境変化に対して彼らの対応が競合に比べて後手に回っていた事が顕在化してきた年だという印象です。(業界人的には)
 それでも2016年にはポートフォリオの見直しなど手を打って株価は下げ止まり、回復基調にのっていきます。現状、株価は就任時点と比べて213%まで引き上げていますので、テレワーク廃止の影響がどの程度寄与しているのかは専門家の深い分析に委ねたいところですが、頑張っているじゃないか、という解釈は可能です。

トレンドで見ると厳しいかもしれない

 とはいえ、株価ではなくてトップラインでかつて競合のAlphabet と比べると以下の通り。左がRevenue (売上)で右がNet Income (当期純利益) です。凡例はオレンジがAlphabetで青がYahoo! Inc.です。ここでは絶対的な金額の多寡では無くて、時系列での伸び率をつかんでください。Yahoo! Inc.が時代に置いて行かれている感は否定できない残酷なトレンドです。

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なお、Yahoo!Incの在宅勤務廃止のニュースの際は、次の二点で議論を呼びました。

(1)在宅勤務は本当の仕事とはいえない。真の仕事は、会社でしかできない

(2)在宅勤務は生産性を向上する。正しく行えば、出社して働くより多くの成果が得られる
(by Micheline Maynard ) 関連記事

 この二点について、私は在宅勤務可能な仕事と不可能な仕事が必然的に存在すると考えているので、(1)に関しては「真の仕事」という言い方が非論理的なので否定的で、(2)については「正しく行えば」の限定条件含めて同意です。この「正しく行う」が業種・業界・各社の文化によりバラけますので意見が割れやすいところだと思います。

 どういう事かというと、(根拠なく言ってしまいますが)日本の会社で営業さんが顧客に何かしら報告や提案をする際に「では次回のご提案はリモートからさせて頂きます」とか言ったら大部分の人が「何ですと?」という感じになると思うからです。

 Yahoo! Inc.とIBMでは業界的には隣近所みたいなもんですが、置かれている環境が違いますし、Yahoo! Inc.の業績に関して製品ポートフォリオの問題と、アリババの持ち株をどうするかという問題もありますので、この一例だけでは何とも言えませんが、頭の良い会社だと思いますので、こういった事例も精査しているものと思います。

  と、ここまで書いてIBMとYahoo! Inc.の過去10年の株価推移を並べてみたら2015年からのトレンドがやたら似てました。なんでしょうね、この感じ。(赤 : Yahoo! Inc. , 青 : IBM )

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テレワーク制度とビジネスの成績の関係 (IT業界編)

 あれこれ書いてきましたがやっとタイトルの内容に近づいてきました。テレワークと業績の関係についてのデータや文献を10分くらいサーチしましたがドンピシャなものが無かったので、データをつぎはぎしながらIT業界の数社に限定して調べてみました。このデータ集めるのが一番手間がかかったので小さな発見を期待しましたがやはり相関関係は見いだせず。
 ただお蔵入りさせるのはもったいないので参考までに。

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 元データはアメリカの flexjobsが出しているBest 100 Telework Companyの中からIT業界の主だった企業を8社ピックアップ、さらにランクには入ってなかったMicrosoftとFacebookを推進派の代表格という意味で追加しています。グラフの見方は以下補足の通りです。

  • 社名の上の数字
    そのランクで左から上位の企業。つまり「テレワークを導入していて従業員からの評価が高い」順序です。
  • オレンジ色の棒グラフ
    直近の従業員数です。各社の差が激しいので右軸で対数で示しています。対数グラフの意味が分からない方に説明しておくと、例えばSymantec とAppleの間には10倍の差があるという事です。
  • 青い折れ線
    直近の3年間の売上の前年比です。つまりトレンドとして成長しているかどうかをつかむためのものです。

 サンプル企業の従業員数は1万人から34万人の会社まで多彩です。人が増えている会社は成長過程の場合と衰退過程の場合のどちらもあり得ますが、そのあたりは青い折れ線で示した売上の伸び率のデコボコと比べてみると、多少IT業界に関して知識がある人が見た場合、味わい深いのではないかと。
 肝心のIBMですが従業員数がダントツです。Best 100 Telework Companyの7位にランクインしていますので、従業員にとっても慣れ親しんだ制度であり、支持されていることがうかがえます。
 反面、直近3年のトップラインはNegative Growth になっていますので、このあたりが経営的には危機感として捉えられているが故の判断なのだろう事が推測できます。できませんかね?

まとめにかえて

・まずやってみる

 神学論争のように賛否が分かれているテレワークですが、日本に関して言えば通勤地獄からの解放や子育て・介護との両立などに寄与する制度ですので、導入できる企業は試験導入で変化を観察するのがよいと思います。

・やってみて測る

 これだけテクノロジーが進化しているので、コミュニケーションを取ることの難易度はさほどありませんし。生産性を何で測るかを予め規定しておくことは重要ですが、定見がある話でも無いので、導入した場合に従業員の働き方がどう変化するかをIT部門と連携してデータを拾ってみる事でその企業にあったやり方が見えてくるのではないかと思います。例えばメールやチャットなどの量、ビデオ会議の利用頻度、勤務時間の分散、ミーティングの数など。一見して関係なそうなものも含めて「拾えるものは拾ってみる」が予断を排除するうえで大切です。

・「働き方」というよりは「働く」という事を改めて自らに問う
 おそらくテレワークについては、オフィスに来る事が仕事の前提という習慣に何の疑いも持ったことが無い人が多数いる会社の場合は、「使ってみたい人」と「理解できない人」の間に意識のギャップがあるはず。そういう企業では導入のハードルは高いでしょう。
 私は企業で働くという事は「自らの資源をもって企業に貢献して対価を得る」という感覚ですし副業も賛成派なので、個々の勤務先 ( = 契約先)に対するロイヤリティは持てたとしても、そこを個人の準拠集団とみなして同調圧力を働かせるような事に対しては否定的です。多様な労働観があって当たり前だと思うので、それを支援するために選択肢を用意する事が今の経営には必要なのである、というのが現状認識です。

 万が一、自分が社長になった場合は考え方が変わるかもしれませんが!