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宅配便急増で大変 > 解決方法を考えてみた

 このあたりの記事がスタートなのかと推測していますが、ヤマト運輸の悲鳴がタイムラインにチラチラ流れてくるので時事ネタに対する感想として簡単に思うところを記録しておきます。

www.huffingtonpost.jp

❖ニュースのポイント
  • 宅配便の量が増加して今の人員では対応できない。(年間18.7億個)
  • これ以上さばけないから引き受け抑制してほしい。
  • 夜間時間指定や再配達サービスの見直しを希望。

 春闘の争点に関するニュースでもあるので、労働者側から経営者側に対して「仕事減らして給料あげて」といった要求が出ている、といったあたりは割り引いて受け取った方が良い話だと思いますが、身の回りの反応を見る限りでは、

  1. いち早く配達されることが本当に価値あるサービスと呼べるのか?
  2. 無料といいつつどこかにしわ寄せがいっているのだアマゾン、楽天けしからん!

といった趣旨の意見が散見されたのが印象的でした。
 1は別のトピックでも見かけることがありそうな価値観の話。
 この手の価値観を担ぎ出すとピザの出前やカクヤスはどうなんだ? とか、電車の定時運行にどこまで潔癖さを求めるか、といった類似ケースが出てきます。
 ことの本質は差別優位性が乏しいリテールがとった戦術の結果、想定よりワークロードがあるので補正しよう、という話だと思う。よって「そんなに急がなくてもいいじゃないか」運動を消費者側が展開したところで、空いたスペースに誰かが入ってくるだけだと思います。

 2はサービスの体系をあまり理解していない物言い。
 アマゾンプライムは有料ですので、おそらく楽天のあす楽に対しての物言いかと思います。私自身はアマゾンヘビーユーザーでプライム会員で、楽天では一度も買い物をしたことがないくらいに利用が偏っていますので楽天のサービスに関しては、前職で出店していた時の経験でしか語れるものはありません。正直、あまり好きな会社ではないですが、利用条件が明示されている点であくまでも店子の努力目標という位置づけかと。ただし、あす楽サービス安心宣言に書かれている、

ショップからのお詫びとして購入金額の5%相当の楽天スーパーポイントを付与します。

これは、、、嫌な印象です。
 構図としては「アマゾンに対抗しないといけないので楽天としてはあす楽を全力で推しますよ。だから乗ってくれたら露出とかでいいことありますぜ。ただしSLAに違反した場合のペナルティはテナントの責任払いで」という市場の主人の強さがにじみ出ています。もちろん、店子にもどこに店を出かという選択の自由はあるので、楽天の付加価値向上のための原資が店子の努力だけで成立していることに耐えられないのであれば、FBA (Fullfilment by Amazon)でもYahoo! ショッピングでも流れるでしょう。

 ちなみにアマゾンについては、Amazon Inc. のSEC Filing に基づく分析として、以下の記事の中で、2016年は$7.2B ( およそ8100億円) もNet Shipping Cost が発生しているというデータが提示されています。

www.geekwire.com

上記記事内にあるグラフ

f:id:takao_chitose:20170224122236p:plain

 「アマゾンは他人の犠牲の上にサービスを成立させている」みたいな認識を持たれている方はこのあたりのデータも理解しておいた方がよいです。物流というのはとてもコストがかかるものでリテールにとって生命線ですので、損益分岐と顧客満足度の見合うラインを模索しながらサービスしているのがビジネスであり、そこに観念的な視点を持ち込んでも生産的ではありません。

❖このニュースで検討したい点とアイデア

まとめてもかねて私の考えているところをまとめてます。
このニュースは、

  • 個別企業の労働力確保の話であり
  • 対価を払った消費者がそれに見合うサービスを享受している

という意味において、いち民間企業が成長機会(荷物の増加) にどう対応するかという興味深いケーススタディですが、倫理観や価値観に訴えて何かを問題視する話では無いと考えます。
 ただし、いくつかの点について検討されるべき点はあると思うので以下に。所詮、私ごときが思い浮かぶアイデアなので、どこかで既出のものもあると思いますが、ものごとに柔軟に考えて、課題を機会と捉えたい性分としていくつか開陳しておきます。

◆再配達の手間について

 前半の主張をひっくり返すわけではないですが、「なんでもかんでも今日中、明日中に届いている必要ってありますかね? 」という点については理解できます
 少なくともアマゾンでは配送のオプションを選べますので、個々の消費者の価値観とニーズにおいて適切な配送タイミングを選ぶ事は「宅配会社の課題にも寄り添った生活者」という意味では良いことだと思います。本当に急ぎなら小売店で手に入るものであれば普通はお店に走るはずですし。(高齢だったり障害で身体の自由に制限がある場合は除きますが) 
 人間の性という意味では「会費を支払っているのだから届けせれるならさっさとお願いしますよ」というニーズは無くならない気がしますので、悩ましい部分。いずれにしても再配達を取り巻く二度手間、三度手間、というのは確かに生産性の観点で無駄があると思います。そこで 、

  • ドア前に放置してOKというオプションを作る
  • 時間指定で不在の場合は消費者責任という事で最寄りのコンビニ留め置き
  • 梱包を工夫してポスト投函で済む形式を増やす

といった改善はあっても良いかと思います。

◆受取り方法の多様化を支えるアイデア

  • コンビニとの提携
     これは有効。
     コンビニが荷物を預かる理由は来店のきっかけを作れるからです。これがわかってないと思われるコメントを朝日新聞デジタルの記事についたコメントで見たけどどんだけ世間知らずなんですか、という感じ。コンビニからすれば供給過剰気味な店舗網の中で来店理由になるので、それだけで御の字。商品購入以外にも着払いのためにATMで現金引き出してくれれば手数料も入るわけだし。
  • 新聞配達と提携
     我が家のお向かいはアマゾンプライムのための宅配を請け負う会社がありまして、毎朝6:00台から10台くらいの軽ワゴンにたんまり荷物を詰め込んで走り回っています。
     素早いデリバリーのためにはこうしたハブが必要で、そこに相性が良いのが新聞販売店じゃないか、というのが私のアイデアです。地域を細かく分けた配達網がすでに確立されており、地域の道路事情にも精通しているので「配達」のためのReadinessはとても高いです。ドライバーの確保という意味でも、既存資源の活用も出来るわけですし。さらに新聞の発行部数の低下が経営課題である新聞販売店にとっては渡りに船な提携ではないかと思うのですがどうでしょうか?
  • UberRUSHとの提携
     これは文字通り。個人の能力をテンポラリーな宅配資源として活用する方法です。トランスポーターという映画がありましたが、あれのカジュアル版です。UBERは日本においてはタクシー業界と揉めて以降、やや静かですが、Uber Eats もサービスインしていますし「ものを届けるために個人のリソースを活用する」という意味ではUberRUSHも有効です。日本には昔から赤帽という組織がある訳で、全くの黒船サービスという訳でも無いですし。

    https://rush.uber.com/how-it-works

  • ご近所受取り
     なんか昭和の中頃みたいな話ではありますが、向こう三軒両隣って言うじゃないですか。あの感覚で「あらかじめ当事者同士で合意されている」前提でそういったサービスが復活できないものかと。単身者世帯が多いエリアでは難しいですが、成立するエリアもあるのではないかと。それの旗振りをヤマト運輸にゆだねるのも筋違いな気がしますが、「他人の荷物預かりますよ」という人を公募して、配送オプションで「不在の場合は近所の〇〇さんが受け取ってくれます」みたいなオプションを提示するイメージ。Time Ticket のサービスをアレンジする感じです。
  • 機械化の推進
     これはドローン配達につながる話ですので短期的な解決策では無いですが、いきつくところ、自動運転車とドローンのコンビネーション等も地域を限定するとは思いますが普及すると思います。あるいは一軒家ならペッパー的なものが受取代行するとか。これは大きな産業構造の転換という文脈で見ると、物流における労働集約的な部分について、現在の方法では対応しきれなくなったので機械化します、って話にもなってくるので、「再配達まじつれーわ」とか人間が言ってられる今のうちは実はまだ良い時代でした、なんて事にもなりかねないな、と。

 オンラインもオフラインもリテールを取り巻く環境はそれぞれに厳しさがあると感じています。ただし人口減少というのは日本国内の全産業に共通の課題ですので、それはリテール苦戦の理由にはなりません。そうすると、なにかしら構造的な転換が遅れているとみるべきです。

 その一つがこのロジスティクスというか配送時間の短縮化に関連するものであるというのが私の認識です。日本人が得意としている正確・緻密・丁寧な仕事ぶりを体現していくことに現在のやり方では限界が見えているのあれば、それが変革のドライバーになるはずです。

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更新記録 2-Mar.2017

・冒頭のnhkの記事がリンク切れしていたので、ハフィントンポストの記事に差し替え

・この投稿の追記を書いたのでそちらへのリンクを追加

takao-chitose.hatenablog.com