ハーバードビジネスレビューの7月号が組織の特集なので読み込んでしまった。
❖日本発グローバル企業代表 : トヨタの例
で、HBRで気になったのは後述するとして、タイミング読んだこちらのトヨタの人事に対する記事がまた良かった。
見出しが若干、会社員の琴線を刺激する感じですが、内容は割と実直。
「全員がバッターボックスに立ち、『ナイス・スイング』と声を掛け合おう。これから私は評論家ではなく、バッターボックスに立つ人を評価する。そして空振りの三振は許すが、見逃しの三振は駄目だ。この組織改革が課題を解決するための『ソリューション(解)』ではなく、仕事の仕方を見直すための『オポチュニティー(機会)』と考えて欲しい」
適度なメタファーでオブラートに包んでいますが、言ってることは「リスクテイクせよ」という事かなと思うのです。今期も増収で良好な成績を出しているにもかかわらず、トップ自らが締めてかかるこの姿勢がすごいと思います。
トヨタ式に代表されるように、トヨタの様々なノウハウって土着の宗教みたいなものだと常々思っています。トヨタ・ウェイを見学して、本で読んで、中の人に話を聞いても自らの組織にそれが定着する保証が無い点において、他の模倣可能な経営ノウハウとは質的に異なると思うのです。
単独で68,240人、連結したら338,875人というグローバル企業*1の中に、共通の価値尺度を植え付けるのって至難の業だと思います。事実、出世出来るかどうかの見極めが、
実はトヨタが求める人材像は明確で、一言で言えば、「花見幹事ができる人材」(元人事担当役員)。
だそうです。
もちろん、本当に花見を仕切れるかどうかでは無くて、「多様な人材と複雑な環境を取りまとめる能力」という意味での比喩です。表現の仕方は日本的ですが、現代のグローバル企業では割と当たり前に語られている価値観だと思います。英語で言うと 、Diversity & Inclusion みたいな表現があたると思います。
その一方で 、こうも語ります。
役員になれる人材の共通項もある。ざっくり言えば、部下のためを思って仕事は鬼軍曹のように厳しいが、いったん職場を離れると、気のいいおじさんで面倒見がいいという人物像。
この相反するような価値観 (グローバルとドメスティック) が混沌と混ざり合っているのがトヨタの企業文化としての強みなのかなぁ、なんて想像しています。
❖成長企業の例 : ポリゴン・ピクチュアズ
話はHBRに戻るのですが、特集のトップであるポリゴン・ピクチュアズの塩田社長のインタビューが一番学びが多かったので、その中から印象的だったところを簡単に。
今時のクリエイティブ集団というイメージからすると、2013年に設立30年を迎えているという点ではどちらかというと老舗企業としての貫禄すらある感じですが、これまでの試行錯誤を素直に語るインタビューが非常に好印象。
・クリエイティビティと分業制という二項対立からの脱却
会社案内にもあるとおり、300名を超えるクリエーター集団である。その集団の創造性と生産性のバランスをとる事がどれほど大変な事かという点は、自分の経験でも首肯できる部分があります。
例えば、筆者が属している業界 (ICT)、グローバル企業という環境では転職者は当たり前のように毎月入ってきます。(故に出ていく人も多い) 。クリエイターをマーケターに置き換えれば、個々の経験と信念のバラつきが原動力になる反面、集団としての統制もまた両立する事が、上述の「創造性と生産性」と似たような課題として浮かび上がってきます。
チームとして「外から来たタレントと社内環境の適合を進めながら、でもそのタレントの個性や経験値を活かす」というのは、文字で書くと簡単ですが、実際には時に骨の折れる仕事になります。なぜなら「経験者」というのは程度の差こそあれ「自分の型」を持っているから。新たに参画した組織に流れている文化的なものに本人がどのように適応して成果を出すか、という事については「入ってくる人」に先ず責任があります。その上で、当然、受け入れる側にも外タレを活かしていく責任が伴ってくる関係が外資ICT界隈での共通認識なのかな、と思っています。
で、同社の解決方法は、ブルーカラーの生産性向上をホワイトカラーにも取り入れる事だったそうです。ゴルゴ13のさいとうたかお先生が、劇画制作における分業制の草分けとして知られていますが、同じようなスキームをより大規模に、かつ現代的に取り込んだのだろうと想像しています。
その過程において、「効率性とクリエイティビティは相反しない」という点を貫いたのがとても印象的でした。曰く、
「効率を求めることは、あなたたちのクリエイティビティを削ぐことではない」
私、このセリフ読んだ時に少しですけど痺れました。かっこよすぎです。
・継続的な変化の必要性から目を背けない姿勢
分業制→効率化→システム化→標準化と仕組みが出来上がるにつれて、新入社員でもそこそこのものがアウトプットできるようになる。それは安定や成熟を意味する反面、モノづくりの原点でもある「熱量」の減少という副作用が現れてくる。
その現実を否定せずに、仕組による標準化を通じた地力アップに加えて、新たな熱量を産み出す仕組みを講じていく、というスパイラルを繰り返されるているようです。
これは、組織、システム、リーダーが示すディレクション、といった様々な側面で試行錯誤を繰り返されていて、決して固定的な解が無い前提で前に進むという、いわばAdaptive Learningを地で行っているような印象でした。
それをメディアのインタビューで誠実に語れちゃうところがとても好印象で、この会社が作った作品を見てみようかと思った次第。