まずはじめにこの度の地震で被災された皆さまにお見舞い申し上げます。また、被災地に入られて救助・救援にあたられている自衛隊、警察、消防、ボラテンティア、医療関係 、自治体職員などの皆さまに敬意を表するとともに、被災地の1日も早い復興を祈るだけでなく、自分に出来る事を粛々と行おうと思っております。
今週は別のお題を考えていたのだけれども、「平成28年(2016年)熊本地震」*1の影響が日毎に広がる中で、東日本大震災に続いてマーケティング部門として広告活動の自粛対応に追われる中で、こうした「自粛」がマーケティングの観点でどのような意味をもたらすのかを少し考えてみました。
こういう思いもありますが、今回はマーケティング活動としてのリターンという文脈ではなく、自粛の形態と顧客との関係、という点に考えたいと思っていますが、こういった激甚災害において過去、どうであったかを簡単に整理してきます。
◉広告活動の自粛の例
東日本大震災のケースについては、亀井昭宏氏の報告がこういった特異なケースにおける消費者側の反応についても定量的に整理されていてとても参考にりなりますので、そこから本稿の趣旨に関連する部分を抜粋させて頂きますと、
- 各局が地震発生直後から順次、特別報道体制に入りテレビ朝日がCM抜きの震災報道番組を74時間放映
- テレビ東京以外の各局も60時間強のCM中断があり、この間、33時間にわたり在京テレビ曲ではCMが放映されなかった。
- これは阪神淡路大震災の折の36時間に匹敵する長さである。
- なお、昭和天皇崩御の際のCM中断は46時間と記録されている。
- その後、広告主との協議なども経て公共広告機構(ACジャパン)のCMに差し替えが進み、通常であれば1日3-4本のところが、震災発生後1週間で3000本強に達した。
その後、極端に増えたACジャパンの広告に対して否定的な反響が高まったのは記憶されさている方も多いと思うし、私も余震に対するストレスとCMの見過ぎで気分が悪くなったのを覚えている。そうした反響も踏まえて企業CMとのミックスが始まるわけですが、3月期のデータによると、ACのGRPが143,022で、2位の花王 (18,034)を約8倍の出稿量で大きく引き離している。こうした状況が収束するのは震災から2ヶ月を迎えた5月11日頃にはAC広告の本数は通常のレベルに戻っている。
◉顧客中心(Customer Centric)との関係で自粛を考える
広告(Advertisement)の定義はAMAによると、
Any announcement or persuasive message placed in the mass media in paid or donated time or space by an identified individual, company, or organization.
です。念のため和訳しておくと、以下のような感じかと。
「特定の個人、企業、組織による告知または説得的メッセージを、有料で購入したか寄付されたマスメディアの時間や枠を通じて発信する事」
この定義に従えば、必ずしも「自粛してCMを停止」という判断は最善の策ではないようにも思えてきます。もちろん、いたずらに世の中を刺激するようなコマーシャルは差し控えるべきですが、そういったものは震災があってもなくても一定の「自粛リスク」は内包している訳ですし。これは古くはメッセージ性の強いベネトンの広告や最近ではカップヌードルのテレビCMなどが指摘できます。
最近では「不謹慎狩り」という言葉も出てきて、企業の宣伝担当者にとっては時にトンチキな匿名クレーマーの発生に神経をすり減らす事もある受難の時代ですが、企業として伝えるべきメッセージを載せる伝送路としての媒体は使い方だと改めて思うのです。商品広告といっても、「新商品買ってください」と「お困りのみなさまにはかくかくしかじかの方法で」といったような顧客支援の文脈であれば発信する価値も大いにあると思うのです。
そう考えた時に、問題は広告主がそういった予測不可能な事態において臨機応変に動けるかどうか、という点だなと思うのです。
とりあえず「広告活動を継続しているとイメージ下がる恐れがあるので、競合の動きとか見ながら一旦停止」ってのがよくある展開な気がするのですが、これは実は正しい対応しているようで、単に思考停止しているだけなんじゃないだろうか、という思いが今回の社内対応を通じて湧いてきました。
特に、デジタル広告においてはエリアに応じた出し分けなども可能な事もありますので、そのあたりは余計かもしれません。上記AMAの定義で触れているマスメディア以外にも、数多くの接点がある訳で、それらの蛇口を全部止める事は、顧客と企業のアクセスルートを全部閉じてしまう事にもなるのではないか、と。そんな風に考えた訳です。
そしてコールセンターだけがパンクしたり、お見舞いのワードがありながらも、基本的にはいつもと同じ調子のホームページを目にした被災顧客が感じる事ってどんなものでしょうか、と。
◉どうすれば良いのか
こうした激甚災害は当然、予測不可能である。それを前提として考えると、以下のような点が企業内で合意、制度化されている事で緊急時に柔軟な対応が可能になるのではないかと考えています。
- まず、その企業自体のBC(事業継続性)とDR(災害復旧)対策が講じられている事
- 顧客の地理的把握ができている事
- 広告活動の分類と計画が把握できる仕組みがある事
- 災害時に顧客が被る被害が想定されている事
- 想定される被害からの回復手順やコストが見積もられている事
- 顧客側で出来る事と出来ない事の分解点が分かっている事
- 災害時に顧客が被害を最少に止めるために必要なコミュニケーションのコンテンツが用意されている事
- それを伝える手段として、特別な方法を用いる場合と、通常の広告の差し替えをする場合があるかどうかといった判断の為のプロシージャがある事
- こうした対応を流通と協調しながら実施する必要がある場合はその事前合意
- 社内、広告代理店、コールセンタ、セールスといった顧客コミュニケーションに携わる部門がこれらに対する共通理解と実行可能なインフラ、プロセスを持っている事
書いてみて思いましたが、こんな事が全てできる企業ってあるのだろうか。。。
コンサルティング会社でBC/DR系の事案を経験されている方がいたら、そういった時に企業コミュニケーションをどう取り扱っているのかをぜひお伺いしてみたいです。
上記リストの妥当性はともかく、激甚災害といった非常時にどういった顧客コミュニケーションをするのか、という事をあらかじめオプションを想定して議論しておくだけでも随分違うだろうし、より具体的にプロセス、コンテンツ、といった部分も含めて検討する事で、そもそも自分たちのマーケティング活動が顧客に適合した形で行われているのかどうかを見直す機会にもなるのではないかな、と。
そういう「備えよ常に」という事もまた立派なCustomer Centricなのではないか、と改めて感じた訳でありますがいかがでしょうか。