今のマンションを購入して6年目に入っている。入居して3ヶ月で3.11に遭遇してしまうなどもあったけど大きな被害もなく、その後の耐震ゴムやら杭打ちデータ偽装やらの消費者にはどうしようもないような事件に巻き込まれることもなく生活できている。
高層タワーでも無いのに東南の展望が開けていることによる陽当たりの良さと公園まで徒歩30秒くらいの距離が気に入っている。決して日本人サラリーマンに人気の駅近物件では無いので、買いたい人は価値観的には絞られてくる方の物件だと思うのだが、それでも毎週、数多くの仲介屋さんのチラシやDMが入っている。中には自前でポスティングしていったと思われる消印の無いものもあるが、大手は大体、世帯主あてのDMである。こんな感じですね。
で、この例が象徴的なのですが、これ系のDMによくある特徴として、
- 担当営業や所長の顔写真
- 取り扱い実績数
- ライフプランにあわせて相談乗りますぜ (買替、売却、賃貸など)
- 地域に根ざしています的なアピール
- 期間限定オファー
こんな感じだと思います。それぞれの狙いとしては概ねこんな感じ。
- 安心感 = 顔出し
- 信頼感 = 経験豊富
- 対応力
- 情報量 = この街に関しては任せてくれ
- 今がお得なんです (だから来てね)
実に手堅すぎてどこも一緒な印象。全部直球。
せっかくエリアで色付けしやすいDMなのに、全部同じ内容にしているのが惜しい。家の売却や購入ってのは一般市民にとっては人生で数回あるか無いかの大きな商談なのにCall to Actionが弱すぎる。*1
こんなに枚数使うなら、せめて地域の売却価格動向とか、事例とか、売るか貸すかの診断表とか、もう少し捻ってもいいんじゃないでしょぅかね。印刷物にカスタマイズすると高上がりで避けたいのであれば、発送地域ごとに二次元バーコードで誘導したっていいじゃないですか。この写真のDMなんてWebのURLすら書いて無い。
結局、安心も信頼も豊富な情報も「営業所に来てね」という発想が根底にあると思うのです。気休めにフリーダイアルにしてますけど。本質的に「お客があちらの営業所に足を運んで始まる」という不動産業界特有の商慣習な気がします。装置産業的なサービス業ならいざ知らず、デジタル化して営業担当に端末もたせればどこでも行けるのに。そのあたりの旧体質な感じが色濃く残る業界だなぁ、と勝手に決め付けてます。
実際、おうち研究所が提供するサービスを使えば相場は手元で簡単にわかる時代になっているわけで。
おそらく、営業所で具体的にいくつかの場所の条件とか質問したら「調べてみます」って端末叩き始めるパターンが多いと思う。で、プリントアウトして持って来るみたいな。そんな対応をされた時に、ネットで下調べしている人からすると「せっかく来ているのにそこからか」となりますよね。今の時代に家を売り買いする人の情報リテラシーとかをもう少し幅を持って考えた方が良いと思うのです。書いてて、マジで余計なお世話だなーと思いますけど。
さて、計算してみるか
やっと本題だ。そんな非効率感漂う仲介チラシってどの程度のROIだと行けるのだろうかとOSINTで計算してみた。
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今回の見積もりの基礎データ
- 世田谷区世帯数 : 461,725 *2
- 写真の店舗の営業範囲は世田谷区内の玉川、砧地域の一部約88,000世帯と推定。*3
- 営業範囲内の住宅数(推定) : 88,550件*4
- DMの概算制作コスト: 1通 75円*5で463万円
- DMの郵券代金 : 427万円*6
こんな感じでざっくり計算すると、
- DMコストが890万円程度。
- これのDirect ROIを5.0と設定すると、期待する売上(いわゆるDirect Conversion Revenue)4450万円
- 仲介手数料は宅建業法で定める3%
- このエリアの中古マンション相場の中央値が2400万円
で計算すると62件成約しないと5.0を満たさない。*7
発送しているDMの通数(61000と仮定)を割ると0.1%。。。バナーのCTRの話かと思うような%になってしまいました。だいぶ適当な計算で、週末の朝にチラシ見て気になったので叩いただけですから精度は問わないで欲しいのですが、直感的に効率悪そうな気がしたのを検算してみたらこんな感じだったと。
この業界に詳しい方がいたらぜひ、この世界におけるマーケティングの現況とかお伺いしてみたいところです。
やべ、土曜の朝に2時間も使ってしもうた。。。
*1:筆者は過去にマンションの売却をした際は、結局チラシやCMに誘導されたわけではなく、駅からの帰り道にある大手に仕事帰りに立ち寄るという流れでした。閉店間際でお茶飲んでいた営業さんからするとラッキーでしたね、という感じ。
*3:店舗のサイト内情報より、上野毛、用賀、深沢、砧の各街づくりセンターに所管される範囲が営業対象地域として推定可能
*4:世田谷区内の住宅数が2008年のデータで450,220戸。データポイントが古いので、直近の住宅数増減率を前々回(2010)と前回(2015)の国勢調査より2.98%として算出
*5:A4/4Cの両面簡易印刷で、130-170k程度のコート紙。封筒は計算入れず
*6:#3の70%程度に発送、第三種で定形外100g以下、区分差出割引3日猶予、ロールパレットなし、地域区分局等差出割引なし等を仮定
*7:繰り返しますが、マンションの中央値ですので。戸建や諸条件による価格の振れ幅などは計算としては省いています