軽めの仕上がり (はてな編)

Curiosity is the most powerful thing you own.

前澤社長の座席買い占めが面白いところ

 昨年転職して、20年ぶりくらいに日本企業にお世話になっている。
 業務的に、新規事業や変革系のプロジェクトに係るので、社長を身近に感じる環境で仕事をしている。で、この社長さんが情熱と好奇心と野心の塊みたいな人で、毎度、エネルギーやらサポートを頂くのだが、そんな目線で見渡した時に面白いなあと感じたのがこのニュース。

 スタートトゥデイ株式会社の前澤社長がSpace X 社が開発している大型ロケットBFR(The Big Falcon Rocket)を用いた民間人向けの月旅行の座席を全部買い占めたって話。下記のビデオでは26分をすぎたあたりで前澤社長が紹介されて登壇します。

youtu.be

何が面白いかメモしておくと。

社長が命がけ

 前澤社長の資産から持ち出しなのか、会社費用なのか知りません。でも、ZOZO社がどうやって会計処理したり、保険かけたりするのかという小市民的な部分はとても気になります。しかしそうした一般常識レベルのところを超えて手を挙げる訳ですよ。面白いよね。開発している会社の社長が乗らないのに、大枚はたいて乗るんですからどう考えても命がけ。しかも本業じゃないところで。。。
これを成り上がりの道楽と断じてしまうのはあまりに早計です。

 

相手のバリューも高めている

「なんで席を買い占めたのか?」という誰もが抱く疑問に対する回答は、#dearMoon というプロジェクトにある訳です。前澤氏が「これは」と思えるアーティストを同乗させて月に飛び、帰還したら彼らにそれを作品として返してもらう事で、人類共通の財産 ( 英語的には Common heritage of mankind でしょうか) とする。
 これ完全にパトロンですね。人類初の民間月旅行という歴史的な試みに勝るとも劣らないboldなアイデアだと思います。素直にすげー。この良質なアイデアを得たおかげでSpace X のプロジェクトの価値は上がったと思います。dearmoon.earth

マーケティング的に気になるところ

 上記のビデオでご本人が謙遜して自分の英語力を詫びていますが、コミュニケーションの勘所は抑えているし、しゃべるスピードや目線、語彙力の拙さをスライドやビデオで補うなど、コミュニケーションを成立させるためのHolding Power は十分だと感じます。もちろん、「世界初の民間月旅行の最初のユーザ (かつ買い占め) 」という立場である以上、聞き手が耳を傾けるのは当たり前というアドバンテージはあるにしても、通訳を介在させずに自分で喋ったのは、グローバル企業である自社の立ち位置に対して誠実だと言えます。 この座席買い占めからdearMoon企画の段取りがどこまで前澤氏の発案なのか、外野は今のところ知る由もありません(調べてないけど)が、PR機会としては最高レベルだし、前澤氏自身のセルフブランディング、先々の海外上場を見据えた場合の先行投資と割切れば「あり」かもしれません。
 発射までの期間、実際の旅行中に得られるアテンションや、そこからロケット雲のように話題が広がる事を考えると、チマチマとトラディショナルなメディアミックスを考えたところでたどり着けないインパクトは期待できそうです。

ZOZO前澤氏の月旅行は総額750億円以上か? 搭乗者最大9人の気になる「旅費」 | BUSINESS INSIDER JAPAN

もちろん、差し出した担保も相当なもので、連結売上高が984億円 (18年3月期)のビジネス規模の会社がやる事か? という見方もあると思いますが 、自分で作った会社なんだし、いいんじゃないの? と一度もZOZOで買い物した事の無い私は思っています。

 

対比する相手は誰か? 

日経がユニクロ柳井さんと前澤社長の対比をした連載してました。

www.nikkei.com

 ZOZOスーツのばら撒きなど孫さんの手法を彷彿とさせる部分と、「ZOZOスーツで自分にピッタリな服」を提供するビジネスを軸に、オワコンと化しつつあるアパレル業界の勢力図を塗り替える存在として、日本を代表する二人の起業家に絡ませて人間模様をあぶりだしていてそこそこ面白い連載です。こういう図抜けた行動に出るあたりは明らかに孫さん的気質だけれど、孫さんがストレートに資本の再生産、その結果としての社会変革的な方向に突き進むのと比べて、前澤社長のそれは間接的なリターンを引き寄せるような動きに見えます。
 日経に敬意を表して三人の企業家を比べるなら、例えばこんな彩りかと。

  • 孫さんはビジョンに資本主義と野心がエンジン
  • 前澤社長はビジョンに独自の美学と好奇心がエンジン
  • 柳井さんはビジョンに経営哲学とモノづくりの欲求がエンジン

 で、起業家クラスタ以外で比べるのであれば、

  • 歴史クラスタ
    = 織田信長
    (何となくその傾奇っぷりが)
  • 政治家クラスタ
    = 細川護熙
    (国のトップを経験しながら芸術への造詣深く自ら傾倒しているという意味で)
  • 40代経営者クラスタ
    = 藤田晋
    (新事業や変革に貪欲、タレントを娶り、趣味にも精を出すライフスタイル)

まとめ

 冗談はともかく、誰も真似できないようなスケールとユニークな打ち上げ花火であることは事実で、日経連載で柳井さんが評したように「ショーマン」としての本領発揮でもあるこの振舞いがどういう風にビジネスに活かされるのかを期待したいし、こういう経営者が増える事で日本も一皮むけるよな、と。

 そして一介のサラリーマンである私もアジア一円に広がるぐらいの野望をもって取り組んでいるサービスを育てていきたいと思いも新たになりましたよ。
 大事な事なので二回言いますが、だからといってZOZOで服を買う気持ちが膨らんだかというとそうでもないんだよね。そこがマーケティングの難しいところ。