軽めの仕上がり (はてな編)

Curiosity is the most powerful thing you own.

C-HR の広告を見てトヨタ車を選ばない理由を考えた

 免許を取得してから28年。これまでに5台の車を乗り継いできたので1台あたり5-6年は乗っている計算です。旧車を丹念に手入れして乗り続けるようなマニアではなく、さりとて買う前からリセールバリューという名の意味不明な価値観に縛られた貧乏くさい車好きでもありません。色々と熟慮した上で選んだ車をある程度は楽しもう、というタイプです。
 今の愛車が昨年車検をくぐらせたので、もう一回は車検をくぐらせるか、思い切って来年あたりに買い替えるか、というのが今の心境です。某メーカーの方に伺った話だと買い替えは平均すると7~8年に一度のチャンスという「車が売れにくい時代」においては比較的良い見込み客という事になるのかもしれません。

 そういうプロファイルですので、情報収集は積極かつ継続的に行っています。そうしたコンテクストで出会ったのがYahoo! のトップインパクトを使ったこの広告です。

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「TOYOTAの世界戦略SUV C-HR」です。

 Yahoo! ID の情報とブラウザの閲覧履歴に基づいてターゲティングされているのであれば、40-50代あたりがねらい目なのかな、と。そんな事を考えつつ「しかし、40-50代狙いだからストIIって安直すぎませんかね。なんか世界戦略と銘打った車の広告がこれでいいんですか?  」というモヤモヤがよぎりまして、自分が今までトヨタ車を選んでこなかった理由をここで一度書き出しておこうかと思う次第です。

※キャンペーンクリエイティブはこちらでご確認いただけます。

toyota.jp

車に乗り始めた大学生の頃はストリートファイターII(以下ストII)は流行っていたなぁ。(ストIIは1991年にアーケードに登場)。だけどねぇ。。。

 

まずはリリースを当たりましょう

 このトヨタのC-HRという車、目にした広告から勝手に私の属する世代 ( 今、46歳です) あたりがターゲットと決めつけましたのが、調べもしないで断定するのはよろしくないのでリリースを読んでみました。

newsroom.toyota.co.jp

 むむ。ターゲットという言葉はリリースにはありませんでした。。。ちなみにリリースによればこの世界戦略SUV C-HRは、

  • コンセプトは「我が意の走り」 
  • プリウスとプラットフォームを共有しながらも運動性能に独自の味付け
  • レスポンス(即座に反応)、リニアリティ(忠実に応答)、コンシステンシー(車速、横G、路面に左右されない応答)を意識
  • コンパクトSUV市場はデザイン重視の顧客が多いので徹底的にこだわり、外観についてはデザイナーの想いそのものを実現すべく開発
  • スピード感あるキャビン形状・彫刻的な面造形・「ダイヤモンド」をモチーフに強く絞り込んだボディと大きく張り出したホイールフレアの対比など、独創的なスタイルを追求
  • 燃費はエコカー減税の対象に収めています

という事です。
 リリースからValue Propositionを上記のように書き出してみました。これによるとターゲットは「運転が好きで、車の応答性や操作性にこだわりがある人」といったサイコグラフィックなのかもしれません。かつてアルファロメオ 147のマニュアル車に乗っていた時期もあるので、そういう方向性の車は嫌いではありません。「トヨタ」を類推させる部分を伏字にしてこのテキストを読んだら魅力的に聞こえます。
 広告と同時に気になったのはこの車のデザイン。RANGE ROVER EVOQUEあたりの影響を何となく感じますが、しなくてもいい多面体にしている感じが最近のトヨタっぽい印象。好みのデザインではありませんが、実際にはプレデターみたいな顔のレクサスが2016年後半は前年比で下回っているもののそこそこ売れている訳ですし、人の好みは千差万別なのが良いところだと考えるようにしておきます。
 ちなみに四半期で12000台程度という事は、Volvoの年間販売台数、Audiの約半年分くらいは捌いている訳です。「日本でレクサスが売れない訳」みたいな記事*1を見かけたことがありますが、そうとも言えないんじゃないの? という感じです。21世紀のカローラとも呼べるプリウスを技術力と販売力の両輪で市場の一角を占めるまでの存在に育てられる会社です。レクサスにしても販売の大半はSUVタイプと聞きましたのでトレンドはしっかり押さえている感じです。こういったトヨタの地力を馬鹿にしちゃいけません。

f:id:takao_chitose:20170324213238j:plain(販売データは日本自動車販売協会連合会・全国軽自動車協会連合会、画像はレクサスRX 公式ページより)

 

トヨタ車に触手が動かない要因

 トヨタのすごさは認識しつつ、それてせも車好きとしてトヨタ車に関心が向かないのなんでなのか。マーケ視点、購入検討者視点、開発者視点で考えました。

▼マーケ視点

 職業病でこのバナー広告が気になったのは事実。Yahoo! トップインパクト ( 1週間で4400~4800万円也) にデモグラフィックターゲティングのオプションつけている訳ですから、その広告ターゲティングの精度向上に貢献するのもマーケティングに携わる者としての務めと思ってポチりました。
 踏んだ先で初めて知ったのですが、このストIIタイアップはキャンペーンの第二弾で、第一弾が原哲夫さん( 「北斗の拳」)、第三弾がトミカという具合で、まだ続く模様です。このあたりのネタの絡め手からするとやはり間違いなくターゲットは私のようなおっさん達とてみてよいと思います。
 ターゲットされるのは構いませんが、残念ながら私の認知度向上は獲得しましたが、購買意欲を1ビットも揺らさないこのキャンペーン、何が原因なのでしょうか。ターゲットと思しき世代の人が「かっこいい」とか書いているブログがあるので、「当たる人には当たっている」と評価されるべきものであるようですし。

トヨタC-HRのターゲット層とは?世代や年齢が気になる! | ミニバンとクルマのなんでも情報局

しかも、形(外観)が…

かっこいい!!!

おそらく、私の年齢に近い人はそう思っているではないでしょうか。
(筆者注 : このブログ主は2017年3月時点で49歳だそうです) 

 いや、思ってない人もここにいますからねー。と伝えに行きたくなりましたが、こちらの御仁とは「性・年代」というデモグラフィックと「運転する」という属性ぐらいしか共通項がなさそうなので交わらないのが幸せだと思っています。

▼購入検討者視点

 もう一か所、購買検討者があつまりそうなところで価格.comも覗いてみました。

価格.com - トヨタ C-HR 2016年モデル のクチコミ掲示板

bbs.kakaku.com

 本稿執筆時点( 2017/03/24) で、C-HRの価格.com掲示板には126のスレッドが立っています。価格.comデフォルトの分類方法 ( 質問、良い、悪い、特価、その他) に対する書き込みと反応の数を拾ってみました。
 言うまでもなく匿名掲示板のデータですので、そこはマンション掲示板と似たような感じで販売側あるいは競合側の覆面レビュワーや一般のアンチが書き込みしていたりするケースもあり、かつ「質問」に分類されていても中身が「良い」「悪い」の話であるものもありますのであくまで参考程度です。

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 今回は勝手に「潜在的共感度」という割り算をしてみました。リプライ ( = スレッドに対する書き込み) に対するROM(読んでいるだけの人) のリアクション数が「ナイス」ですので、それらを割り算する事で、書かれている事に対して「共感」や「サンクス!」が多く現れている方が世間一般にもその認識が強いのだろう、という推測です。そういう観点で見ると「悪い」が「良い」を上回ります。(だからこの車はダメである、という話では無いですよ。車は嗜好品ですからね。) 
 否定的な書き込みの中で目についたのは、デザイン性をアピールする割に他社製品と似ているでは無いかという点です。ここへきて、C-HRの国内競合も見てみる必要が出てきました。
 昔、アルファードに乗っている友人に「エルグランドと何が違うの? 」と質問して、「まずメーカーが違うな」と怒られた事があったのを思い出しました。日ごろ、情報収集しているとか言っておきながらこの体たらく。車好きは返上です。

C-HR、日産ジューク、ホンダVEZEL、マツダ CX-3を並べてみました。
(画像は各社のオフィシャルサイトより)

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 ま、興味が無い人からした似たり寄ったりという所です。車選びはデザイン > 性能と考えている私がこの中から選ぶとしたら、マツダCX-3です。唯一、ヨーロッパ車的な質感があるのが理由です。トヨタと日産はガンダムかエヴァンゲリオンを彷彿とさせる子供っぽさが趣味に合わない。過去2台乗り継いだホンダは自分が好きだった頃のデザインじゃないなぁ、というところ。 

▼開発責任者の視点

gazoo.com

 この投稿の為にここまでトヨタ車の事を調べるとは思いませんでしたが、開発責任者の想いも確認しておきたいと思います。主にデザインに関する部分を引用します。

今回は、格好良さと走りを追い求め、自分たちの指標でクルマを造りました。競合車と比較して目標を決めるのではなく、こうしたいという思いを軸に開発を進めて来たので、全くブレることはありませんでした。

 「格好良さ」と「走り」が並立する概念なのかは不明です。どちらも感性でしか受け止めれないので「見た目と動力性能」というニュアンスで理解しました。であれば、車のキャラクターの基本的な部分の話なので車好きなら皆さん同意出来る点だと思います。

車体に対して大きなタイヤをはめると、力強さと迫力がでてきて格好良くなるのです。(略)典型的なSUVの箱のような形でなく、ルーフのラインを車体中心から後ろに滑らかに低くなっていくクーペのような造形にしました。(略) 敢えて後部座席の視界は犠牲にしました。(略)また、後席の窓も、クーペタイプのクルマの窓みたいに小さくしています。とにかく、プロポーションにこだわりました。

 このあたりが実際の出来上がりに影響してくるデザインの考え方です。この車で実現する「格好良さ」が内包するものとして「力強さ」と「迫力」が挙げられています。

キーワードが、‘ディスティンクティブ(Distinctive=独創性)でした。他のクルマと違った際立った格好良さがポイントです。(略) オーバーハングを短くし、大きなタイヤをつけ、ルーフラインを後方に緩やかに低くすることで、力強いアンダーボディとスピード感のあるアッパーボディというカタチにし、ディスティンクティブを具現化しました。

 独創性は"Creativity"で、"Distinctive"は「独特の」というニュアンスですので、ワーディングについては違和感ありますが、「デザインでも独特な存在感を追求した」という事が言いたい事は文意から伝わってきます。前段で「他人は気にせず自分達の指標で」と言いつつ「Distinctiveでありたい」というのは興味深いところです。

まとめにかえて

 一つの広告をきっかけに色々と考えさせてくれるという意味では「すごい広告」だし「すごい車」なのかもしれないです。ただ、「心惹かれない理由」の核心にある違和感の正体が購入者、検討者、製作者といった視点の情報を読んでいくうちに像を結んできた気がするので無理やり今回のまとめに入ります。

▼デザイン

 正直、完成品のデザインについては好き嫌いの世界なので言っても仕方無いです。
トヨタという豊富な品揃えを有するメーカーの中に存在するひとつのモデルが、今後の全てのトヨタ車のデザインの方向性を示す嚆矢となるのかは現時点では分かりませんし、逆にこれまでの歴史を踏まえて生まれたようなデザインであるといった文脈も広報や開発陣のコメントからは読み取れないので、そういうものでは無いのでしょう。

 だとすると、ここで言う「デザインも徹底した」という意味はこのモデルに閉じた話になりますので、素人に「似ている」と書かれてしまう事のないデザインを見せてほしかったです。おそらく、コンパクトSUVというカテゴリに自らを置いた瞬間にデザインが同質化してしまう部分があるのは自明だと思うので「こんなSUVもありなんだ!?」という驚きは欲しかったです。
 本来のDisctinctive はポルシェ911とか、フェラーリ、ランボルギーニ、VWビートルといったシルエットでもそれと分かるような「塊としてのデザイン」が際立ち過ぎているか、BMWのキドニーグリルみたいにブランドにおけるある種のお約束的なデザイン予想であると思うのですが、そういったものが感じられないのが私がときめかない理由なんだと思います。これが全てのトヨタ車に通じるのだと思う。

▼広告宣伝

 最大の違和感は、「デザイン追及」しているのに「世界戦略」という看板が掲げられてしまうところ。工業製品として考えた場合、デザイナーが妥協なく突き詰めた先にあるのは極めて限られた需要か、新しいカテゴリを創造するようなものだと思うのです。
 前者であれば、「見よ、コンパクトSUVというのはトヨタが作るとこうなるのだ」と他者が無視できないエッジの強さを誇るはずですが、作り手自身が「他人は気にしない」と言ってしまっているのでこの線は無いです。
 後者であれば、「これからの時代はこんな車が時代の中心に来るのかも」と期待させるような新規性になりますが、こちらも「自分達が作りたい車」を「ヨーロッパのコンパクトSUVユーザ」が求める質感とかデザインまで気を遣ったレベルなので、何も「向こう側」まで飛んでません。
 私はこのように感じたので、「世界戦略SUV」というワーディングに疑問符しか湧きませんでした。「世界戦略 = 世界を変える」では無くて「世界戦略 = 世界で売れる」という事なんだと。それは最大公約数を目指しているのに等しいと思います。
 そんな話は売り手の都合でしかないのに、それを広告コミュニケーションでコピーとして押し出してくるのはどういう意図なんだろう、と。それに冒頭のクリエイティブですよ。日本のターゲットは舐められているのだろうか、と思いましたね。どう考えても世界戦略を具現化した広告クリエイティブじゃないし。

 今回はトヨタに対して否定的な事も書いていますが、別にディスりたい訳ではなくて、単に私が欲しくなるような車は出てこないなあ、という事を考えてみただけです。私は製造業としてのトヨタが有する「世界中に最大公約数を展開できる能力」というのは素直に凄いと思うのです。後発の真似っこデザインでもいいじゃないかと。思い立ったら真似ができるのがトヨタの力量な訳です。どこぞの国の単なる模造ではなくて、それなりに資源投下してトヨタらしいものとして作りこんでしまう能力は他社の追随を許さないレベルだと思います。(書けば書くほど馬鹿にしているみたいですが、そんな事ないっす。) 
 下品な言い方をすると、流行を理解しつつ「皆さんが欲しいのってこういうのですよね? 」と仕上げてくる感じです。リセールバリューに難が出るほどには冒険せず、乗り心地はトヨタ品質なのでご安心を、という「日本人が求める安心と冒険の匙加減を心得た中道」こそがトヨタの強みなんじゃないかと。
 このC-HRという車の広告戦略のセンスやコンセプトとの整合性は別として、「世界戦略SUV」という大見得は、世界に向けて「今のトレンドを反映してます。車の基本性能はしっかり磨き上げて、買いやすいお値段で、もちろん経済性と安全性は安心の日本品質。こんな具合でどうでしょうか? 」とカードを切ったのかなぁと。

 それが正解かどうかは分かりませんが、この「なんでも出来ますよ」という定食屋みたいなところが、私がトヨタ車に惹かれないのだろうなぁ、と再確認させてくれた広告でした。