先週は「働き方改革」というトピックがニュースで取り上げられる事が多いと感じた一週間でした。感じただけなので、Google先生に聞いてみましたところ、データ的には過去90日で見た場合だと微妙に気のせいでした。
「働き方改革」というのは、2016年8月3日に発足した第3次安倍第2次改造内閣の中で「一億総活躍社会」の一つとして取り上げられてまして、担当大臣も任命されているレベルですので、現政権において力が入っていることは間違いありません。
こうした政府の働き方改革関連の動きと呼応して、私の勤務先でも玄関に看板掲げて盛り上がっておりました。という事で今回は、この働き方改革を少しでも自分ごと化するために、調べものしてみましたので、そのあたりを中心に思う所を書いてます。
❖私の労働環境
もともとこの分野をリードする事を公言している会社では今は働いているので、テレワークは当たり前の事として皆さん利用されているのですが、世の中を見渡すとまだまだこれから、という印象です。その為、今週も数多くのお客様がフロア見学に来られていました。
個人的には『週間』もさることながら、「毎月第一・第三水曜日はテレワーク」みたいな仕掛けもしていく事で、テレワークの頻度が上がって普及を後押しするのではないかと思っています。
なお、『働き方改革』でよく言われる長時間労働(残業?) の是正という点については、テレワークが進んでいる勤務先においては存在しないか、というとそんな事は無いです。時差のある相手と仕事をする時はもちろん、在宅であるが故に深夜早朝に集中して仕事をされている方もみかけます。あと、毎日夜遅くまで会社にいる人達、というのも何となくメンツが決まっている感じはしますが存在します。それが単純に忙しいのか、要領が悪いのかは外から見る限りは分かりません。ただ、自分の時間を差し出すことが仕事だと思っているような人はいないので、単純に労働時間が長いという感覚よりは、裁量労働的に「やらなきゃいけない事を出来る時にやる。それが昼間か夜か、何時間費やすかはあまり問題では無い」という感じがしています。もちろん、長時間労働そのものは規範的に見れば問題ですけどね。
個人的には、「勤務時間」という規定そのものが多様性を阻害する要因であると考えているので、フレックス、テレワーク、休日の取得など全て任意にしてしまえば随分と柔軟性と多様性が改善するだろうな、と思ってます。
❖政府系の動き
参加されている有識者の人選についてはよく分からないので 、適切な人々が招かれているという性善説で話を進めます。こういう国策ものについてはWhyを理解するのが大事なので、有識者の発言から主だったところを拾っておきます。(※誰が言ったかは問題では無いと思うので、発言者が知りたい人はリンク参照されたし。)
- 働き方の改革とは国家の成長戦略そのものである
- 労働制度や慣行を時代の変化に見合ったものに変えていく必要がある
- 年功や雇用形態にかかわらず、成果や職務、職責に対して報酬を支払うシステム
- 雇用のセーフティーネットは、働く人自身がスキルを身につけ、再チャレンジすることが可能な労働市場の存在
- 生産性向上の成果を働く側に賃上げや人的投資などの形できちんと還元していく仕組みが必要
- 産業・企業の新陳代謝とあわせて、日本が世界のどの国と競争し、個人も世界のどんな人と競争していくかの将来イメージを持つべき
- 36協定特別条項の上限規制など国レベルでの取り組みが必要
- 長時間労働は、労働生産性の低下、国民の健康、女性活躍、子育て・
介護問題など、多くの社会問題をもたらす原因 - 同一労働同一賃金と長時間労働の抑制とが、働き方改革の枠組みの中で並行的に行われた結果として、どのような働き方の社会が実現するのかを提示する
- 働き方は、労働政策・労働立法や企業の雇用政策・賃金政策などのみで決まっているわけではなく、所得税制や社会保障制度が影響を及ぼしている
こんな感じでしょうか。
これを踏まえて、首相から当面取り上げていくテーマとして以下が示されています。
- 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善。
- 賃金引き上げと労働生産性の向上。
- 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正。
- 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題。
- テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方。
- 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備。
- 高齢者の就業促進。
- 病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立。
- 外国人材の受入れの問題。
感想としては、すげー大変。
強引にまとめちゃうと、Fare & Flexibility のある労働環境なんでしょうかね。
オフィスの引越しに合わせて週休三日制の導入検討も話題になっているYahoo!さんも、中の人に伺う限りでは、まずは「いつでも休める週休二日」みたいな感じで検討していくようです。こういった取り組みが増えて行くことは良いことだと思います。「週休三日 = 機械化が進んで人が不要になる領域が増える = 賃金抑制で経営者はハッピー」みたいな図式でネガティブに捉える思考回路の方も中にはいらっしゃいますが、そういう人はこの時代の変化を受け入れたくないタイプの「脱皮出来ない蛇」みたいなものです。まずは新しい働き方を試してみる柔軟性がないとこの不確実な時代を乗り越えていくのはしんどいと思います。
❖なんでそんなに「働き方」を変えないといけないか?
まずは事実をしかと受け止めるところからスタートですね。国内の格差是正、同一賃金問題など内向きなイシューはたくさんありますが、そもそもマクロで見れば日本は課題だらけである事は明らかです。
- 生産年齢人口の減少
詳しくは総務省の情報通信白書などをご覧頂きたいのですが、そこで提示されているこのグラフが一目瞭然でして、15-64歳の生産年齢人口は減少の一途をたどり、2017年に全体の60%を割り、2060年には50.9%とほぼ半分に減少すると推計されています。この生産年齢人口の定義に目を向けると話が違う方向にいきそうですが、老いも若きも働けるような社会にする事で、総人口が減り、高齢化が進み、少子化も劇的な改善が無い世の中を支えて行く事が重要だと言えるでしょう。
- GDPの低下
GDPってのが分からない方はぜひこのあたりを確認して頂きたいのですが、各国との比較で見てみますとこの通り。
飛び抜けて美しい右上がりが米国、2006年からの10年で急成長したのが中国 、そして穂が日本はかろうじて三位ですが、1990年頃から一進一退を繰り返しています。データの推移を素直に読めば、過去25年停滞している、という感じです。私の社会人生活にほぼ等しい期間停滞している、と考えると何となく自分が否定されたような気分になってしまいます。はぁ。
資料:GLOBAL NOTE 出典:IMF http://www.globalnote.jp/post-1409.html - 膨らみ続ける社会保障費用
そしてこの膨らみ続ける社会保障費用ですが、国立社会保障・人口問題研究所が便利な統計資料や調査を実施されていて、その中から社会保障費の推移を取り出しました。総額だと分かりにくいので支出の目的別のデータでグラフ化してみたとみころ、『高齢』というのが全体の費用の底上げのドライバーになっていることが明らかです。単位は兆円ですので、約40兆円が高齢者対策に充てられている訳です。もう眩暈がしてきます。平成26年度の法人企業統計を見ると、全産業の当期純利益の合計が41兆円*1
これらのデータからクリスタルクリアなのは、「労働生産人口が減っているし出生率も芳しくない、さらに生産性がこの25年くらいは足踏み状態、現在の高齢者向け医療費が高齢化の進展に連れて増加していくのを野放しにしている状態。これは放置していると国として詰む」という事が再確認出来ます。
こんな話は日本中のニュースやブログで書きまくられている話ですが、こうしてデータを自分で拾ってくると、明らかにやばいということが実感できます。
ちなみに、諸外国とこの「高齢」向け支出が占める割合を比較したデータもここにありましたので補足でつけておきます。そんな状態なのに他国に比べてこの高い割合ってマジで危険水域。アメリカの低すぎるのもどうかと思いますけどね。(前掲の国立人口社会問題研究所のレポートより)
- 世界的に高い自殺率
あまりグラフ化したくない統計なので、リンクだけにしておきます。
WHOによる人口10万人あたりの自殺者数で見ると日本は172カ国中18位で18,475人です。そんな状態の国で自殺者数が多いというのは由々しき事態です。自殺の理由は千差万別なので一概には言えませんが、仕事が無い事を苦にしている方に対して働く場を提供できるようなセーフティネットも検討されるべきと思ってしまいます。所得としては限定的だけど社会的に必要な事や手が足りない所は色々あると思うので、好き嫌いは別としてまずは何か働いてみましょう、そういう機会を取り持つ社会的機能が必要ですね。あれ、そういうのをハローワークって言うのか。。。うーん、使ったこと無いので分かりませんが、そこも色々と根深い話がありそうなので、別の機会にもう少しお勉強してから発言するようにします。
とにかく自殺なんて減った方が社会的にはいいに決まっている、という事が言いたい次第です。
❖最後に気になった記事にちょっとだけ意見しておきます
政府、企業、地域、家族、個人のあらゆるレイヤーで変わらないといけない状況下でなんか残念な意見に遭遇しました。
この記事で語られている「働き方改革は痛勤 (注:原文ママ) を救わない」といった言説は理解できないというか残念というか。
そうした安倍政権は、「働き方改革」を大きく掲げている。そのタイトルだけをみると、「痛勤」ラッシュを解消するような、せめて人間並みに通勤できるような環境もつくってくれるのかと想像してみるが、現実は、そうそう甘くなさそうだ。
別に私は現在の自民党政権が絶対的に正であるとは思いませんが、絶対的に間違っているとも思っていません。
ただ、この記事の執筆者の主張で理解出来ないのは、現在の自民党政権批判につなげる事が主題になっているように論旨を組み立てている点です。そんなつもりはございません、と言われればそれまでですが。。。普通に読めばそういう風に解釈されると思います。
私がなぜそう感じるのかを書いておくと、
- 朝の電車が混んでいるのは通勤する人だけが原因では無い (主たる要因ではあると思いますが。)
- 「働き方」を改革する = 「企業と個人の新しい関係性を模索していく」ことが肝要であり、そこが意図な訳です。電車の混雑解消は鉄道会社の仕事であって、彼らが顧客満足度をどう考えているか、という話です。
- この改革を契機にして多様な働き方が浸透した結果、朝の電車の混雑が幾分緩和されるかもしれないし、逆に社会的に多様性が生まれた結果、朝の時間に移動する人が増えてしまい、朝の電車の混雑が今より悪化するかもしれません。
と感じたからです。
この記事書かれた方は、記事の後半で
働く側に立った処遇改善というより、いかにして労働市場に人を引っ張り出して労働人口を増やそう、という意図でしかない。つまり、働く側に立った働き方改革ではなく、働かせる側に立った改革でしかないのだ。
とも書かれています。
労働人口を増やしつつ生産性上げていかないとダメなことはデータから明らかな訳で、何を甘えたことを言っているのやら、という感じです。記事の趣旨として政府や経営する側に対して異議を唱えるスタンスに立っているので、文意としては整合していますが、現実社会には合ってないと感じます。
労働者は待遇が改善されるまで「待つ」ということであれば、日本語が喋れて、日本で働きたくて、日本の同年代と比べれば優秀だけれど相対的には賃金が安い海外からの労働力に持って行かれるだけですよ。そのあたりの自覚が決定的に欠けています。
どのような政治的思想も自由ですので、そういう考え方であること自体は否定しませんが、環境は誰かに変えてもらうのではなくて、自分でチョイスしていくのが世界標準であることは認識しておいた方が良いです。
通勤電車は私も苦痛です。だけど、読書や車内の広告を見て世の中を観察したりもできますし、必要と判断すれば自動車通勤したりもします。それは余計なコストと見るか、時間や手間を代替すると考えるかは自分の判断です。
転職もおいそれと出来ないならば、
- 引っ越す
- 自転車通勤
- 自動車通勤 (Carpool 含む)
- タクシー通勤
- バス通勤
何でもいいからやってみればいいと思います。こういう事を言うと、「そんな余裕は無い」とか「出来ればやってる」とか言われそうですけどね。
わかりきっている課題に対して何もアクションが自分で取れない方には、私の好きな孔子の言葉を贈っておきますのでご参考まで。
論語 衛霊公第十五 15
子曰。不曰如之何。如之何者。吾末如之何也已矣。
子曰わく、之を如何せん、之を如何せんと曰わざる者は、吾之を如何ともすること末きのみ。
※意味が分からない方はこちらでどうぞ。
しかし、「働き方」の話で最後は他人様の記事にかこつけて私の主張をねじ込んでしまった。このテーマって広いので、別途、書くかもしれないな。