軽めの仕上がり (はてな編)

Curiosity is the most powerful thing you own.

シン・ゴジラを観て感じた「逆アベンジャーズ」の構造

 前回「そんな事を書いている暇があるなら映画一本観られるぜ」という程度の時間を費やして、自分が何故ゴジラを消費した事が無かったのか、話題のシン・ゴジラを観に行きたくなるのか、を考えてみたこちらの続編です。

takao-chitose.hatenablog.com

 考えてみたつもりなのですが、冷静に考えると「流行っているよ」というメディアに踊らされて観に行くような自分は受け入れ難い、というちんけなプライドが邪魔していただけなのかもしれません。自分の手で過去の成績と比べて見たら明らかにヒットしている訳で、その事実を自分の目で確認しにいく事はマーケティング界隈の端くれにいる者としての務め、という責任感に目覚めました。ま、小さいプライドをポジティブな探求心に昇華させる事に成功した訳です。

作品について

 とはいうものの、これまでのゴジラシリーズは一度も完全に観た事はありませんし、庵野監督の代表作であるエヴァンゲリオンシリーズもまともに観た事が無いので、その点で変なバイアスはかかってないと自負しています。逆にそれぞれとの比較とかもできませんので、一期一会の感想というレベルです。

 感想をひと言でお願いします、と聞かれたらこう答えます。

「逆アベンジャーズみたいでした」

 これについては後段でカバーしますが、 既に『話題の沸騰』という意味ではピークは過ぎているようなので、露骨ではないけどネタバレしている点はご容赦を。

※以下は9/18時点でのGoogle Trends より。

 

振り返りのポイント

もともと、前回のポストで上げていたのはこのあたり。

  • 大人向けに仕立てているのか? 
    これはマーケテイング文脈です。誰が金払ってくれるか、という意味で。
  • Resurgenceという英語のサブタイトル
    「再来・再生」とか「復活」という含みだと思うので、何かしら過去から引き継いでいるはず。それは破壊?
  • 「怪獣」というギミックの役割り子供たちに「世の中の何か」を伝える媒介としての怪獣は今回は意図していないのか。そこは妖怪さんに任せるのか? 
  • 「現実(ニッポン) vs 虚構(ゴジラ)」というコピーもしかすると「現実 (ゴジラ) vs 虚構 (ニッポン)」なんじゃないのか、という点。

なのでこれらのポイントをなるべく回収しながらの感想文です。

  • ゴジラという空想の産物の活かし方
     これを苗床にして、現代日本をシニカルに捉えた政治コメディという意味では楽しめました。その辺りに対するディテールは手が込んでいたと思います。手が込んでいると感じられるのは「日本の行政」の部分だけ。アメリカの政治的行動については(承知の上でやっていると思いますが)論外の適当さ。各国の政治的な行動を正確に描写しようとすればするほど、そもそもの「ゴジラ」という無理筋が際立ってしまうので、どこかで漫画的に処理しないと話が進まなくなるのはこの手のSFの宿命なので、それ自体はむしろストーリーから気が散らないという意味では良心的かな、と。
  • ガンダムエヴァンゲリオンの世代を旧世代のゴジラで結びつける
     既に色々な方が書かれていますが、庵野監督という事でどうしてもエヴァンゲリオンとの相似形で語られている部分があります。観た事無い私が言うのもなんですが、多分当たっているのだと思います。
     私はいわゆるガンダム世代 (1979年のテレビ放映にハマった世代)に属していて、その14年後くらいにやってくる エヴァンゲリオンの頃には、いわゆるタツノコプロ的なアニメとかロボットものから卒業していた頃です。
     ガンダムゴジラガメラといった怪獣、ウルトラマン的な勧善懲悪に対するアンチテーゼのように「機械文明」と「人間の性と業」みたいなものの描写に力を注いでいたと思っているのですが、それに刺激を受けた世代がゴジラに反応し、それを作っているのが庵野監督というエヴァンゲリオンの人、という所が味噌かな、と。
     このガンダムエヴァンゲリオンという異なる母集団を、両方の集団とは異なるゴジラを題材にして、惹きつけた庵野監督の腕前は相当なものだと思います。ただ、惹きつける為に、怪獣よりは右往左往する役人さんたちにストーリーを振って、大人の鑑賞に堪えられるようにしたのでしょう。そして 、相手が虚構の代表でもあるゴジラですので、あくまでも2.5の線で物語を進めないと収拾がつかないでしょうし。

  • そこで思い出したのがアベンジャーズ
     アベンジャーズは、アメコミヒーローのクロスオーバー作品です。異なるキャラクターが単体の作品を持ちつつ、世界観はマーベル・シネマティック・ユニバース(Marvel Cinematic Universe,MCU)というもので共有されていて、サブセットとしての作品を順次出しているものです。
     今回のシン・ゴジラでは、モスラとかガメラとかは出てきません。あくまでも共有されている世界観は映画の中では無く、観に来ている人の中にあります。ミリタリー好き、怪獣好き、生粋のゴジラファン、ガンダム好き、エヴァ育ち、石原さとみ派に竹野内豊ファン、政治劇が好きな人 、特撮やSF好きなど、軸足の異なる人達が揃って観に来ても何となく楽しめてしまう、という意味でとても優れた作品です。
     つまり、異なるヒーローを一か所に集めてみんなが楽しめるようにする「規模の経済」的なアプローチでは無く、一つのシンボルに色々なアングルを持たせる多様性を含ませた事で、結果的に多様な来場者層を取り込んでしまうという「範囲の経済」的なアプローチが頭に浮かんだわけです。*1それがアベンジャーズだと感じた所以。最大公約数的に楽しませるという意味ではハリウッド的な作りの上手さとも似ているかもしれない。
     ただし、この作品では「破壊の象徴としてのゴジラ」より政治劇的な部分に力が入っているのは否定できないので、その意味で子どもを相手にしてない事は明らかです。
     なので、子どもを炊きつけて商売を太くするのは妖怪の仕事、大人の琴線くすぐってズブズブにするのが怪獣の仕事、って事にひとまず結論づけておきます。そう考えると、庵野監督は次のエヴァンゲリオン劇場版 (があるらしいのですが) で新しい客層を引きずり込む可能性が高くなると思います。

  • どこか生活感の無い空気が漂っているのを是とするか
     この点については、「虚構であるゴジラ」という存在により「現実の日本の適応力を傍証する」という意味においてはたっぷりと時間と予算をかけて描写してくれているので、映画のコピーが言う「現実 vs 虚構」というのはその通りだと思いました。
     ただ、先のポイントで言及した、「ハリウッド的な最大公約数の仕立て」が長所でもあり、短所にもなるのはこの「リアリティ」が偏って描写されている点です。かつてのゴジラ作品を観たことが無いのに言い切るのは無責任ですが、「怖い怪獣と人間の対立」という基本的な構図は今回においてもそのまま踏襲されているのですが、どこか「人間」の側、つまり本作で言う所の「現実」側が終始、他人事のように描かれているところが気になりました。役人の描写が多い割に、庶民の描写が少なくて、そういう意味での生活感みたいなものが無かったので、現実と虚構といいながら、どちらも記号みたいな感じで、血とか感情がほとばしることが無かったのがやや物足りなかった。
     政治的スタンスとして左巻きの人であれば、政府や行政のふがいなさを俯瞰であざけるような描写の連続に喝采しつつも、丸子橋から武蔵小杉に向けて一斉に発射する件とかでは血相変えて怒らないと政治的スタンスが成り立ちません。「現実と虚構」の対立関係を主題に据えるのであれば、「現実」の多様性にもう少し目配せしても良かったのでは、と思いますが、この作品の良い意味での軽さを失うかもしれないので良い塩梅だったのだろう、とプロの腕前を一旦信じることにします。

  • CG技術の進歩
     ここは見ごたえありました。安心して観ていられるクオリティは久しぶりかもしれません。CGが行き過ぎたアベンジャーズは「俳優いらないじゃん」という世界にたどり着いてしまっているのですが、このシン・ゴジラでは生身の役者とCGの出入りが違和感なくて気が楽でした。
     さらに、主に城南地区に馴染みがある方、武蔵小杉界隈の方、京浜急行フリーク。丸の内界隈にお勤めの方にとってはDVDやブルーレイを買ってスロー再生で確認したくなるようなカットが山盛りでした。私もその界隈には住んでいた事もあり、オフィスが品川なので「会社倒れるかな」みたいな楽しみ方が出来たので、買ってしまうかもしれません。破壊シーンは知らない土地より知ってる土地の方が感情移入しやすいという事を再確認出来ました。
     政治的なものに対するシニカルさを徹底するのであれば、国立競技場をゴジラが破壊して建設費圧縮とか、東京湾から上がってくるルートは豊洲にして、乗り越えた瞬間にパワーアップとか黒い方面に振り切ってくれると楽しいのですが、制作時期や大人の節度があると思うので、あまり求め過ぎてはいけないのかもしれませんね。
     いつの日か、国体や大河ドラマ誘致に絡めた地域おこしの一環で「ゴジラで我が町を破壊してください。ゆるキャラじゃなくてゆるくないキャラで。」みたいな営業活動が発生するのかもしれません。
終わりに

 という事で、シン・ゴジラを観る前と後で時間と文字数を費やしましたが、映画としては面白いものでした。伊福部さんの音楽を上手く取り込んでいるところにも深いリスペクトを感じます。
 だけど、このシン・ゴジラを観たから過去のゴジラ作品を一気見したくなるという欲求は1ビットも出てきませんでした。それは、多分、庵野監督の中にあるゴジラに、庵野監督が産み出したエヴァンゲリオンをマージさせてしまったのが本作品であるように思えるからでは無いかな、と思います。

 その意味で、Resurgenceというのはしっくりくるなぁ、とひとりごちています。

 

*1:本当に多様な人が観に行ったかどうかを示すデータは見たことが無いですが、来場者数の多さ、そして今まで一円もゴジラに使った事が無い自分がわざわざ観に行ったという個人的な体験だけで推定していますので、あんまり目くじら立てないでくださいね