軽めの仕上がり (はてな編)

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百貨店が苦戦する理由が実感できた

◾️ 業界のおさらい

 ゴールデンウィークど真ん中の本日、家族とともに近所の百貨店やショッピングセンターに行かれる方も多いことと思われる中で、このニュース。

www.nikkei.com

 記事の中身をかいつまんで説明すると、

  • 大手百貨店5社が2日発表した4月の売上高(既存店ベース、速報値)は5社中4社が減収
  • 時計や宝飾品など高額品の消費にも陰り
  • 高額品から化粧品などの消耗品に売れ筋が移っているインバウンド(訪日外国人)の客単価の下落

 だそうです。

 参考までに、大手百貨店5社とは売上規模順で見ると以下の通り。一位と二位が1兆円を超える売上高です。

  1. 三越伊勢丹ホールディングス
  2. J.フロントリテイリング (大丸、松坂屋、パルコ)
  3. 高島屋
  4. セブン&アイ HD (SEIBU, SOGO)
  5. エイチ・ツー・オーリテイリング (阪急百貨店と阪神百貨店)

 日本百貨店協会による*12015年の売上高は6兆1742億円 (加盟238店)で、既存店ベースで前年より-0.2%の微減。東京地区 (+3.4%)、大阪地区(+1.6%)を除くと札幌、京都、神戸といった都市部に属するエリアでもマイナスという「都心回帰」的な状況になっている。

 百貨店離れや郊外型のショッピングモール、アウトレットといった市場の変化に押されて苦戦が続いていたものの、百貨店業界にとってはここ数年のインバウンド消費とアベノミクスによる影響もあってジリジリと盛り返しつつある流れだったが、ここへきて一服している感がある。

 流通論の王道でもある、装置産業的な意味としての百貨店という業態については別の機会に掘り下げたいテーマですが、事業としての百貨店の昨今の基本的な打ち手はこの三つに要約しても良いと思う。

  • 合併
  • 増床
  • リニューアル

 ひと頃の大型流通企業の合従連衡はひとまず落ち着いた感があるので、残る電鉄系の東急、小田急近鉄などの陣営同士の「合併」は考えにくいので、その他の地方勢、立ち位置が微妙な丸井などが手を組む可能性はありますが、上位陣に詰め寄るには迫力が感じられません。

 生活者の都心回帰という流れが正しければ、都心部での増床は余地も少ないと考えられるので、残るは店舗リニューアルが投資コストからしても一番取りやすいオプションになることが考えられます。

 

◾️百貨店に欠けてるな、と思ったこと

 さて、前置きが長くなりましたが、私は子どもがまだ小さいので、休日には都心部を避けて自宅から歩いていける二子玉川へ出向くことが多いライフスタイルです。

 二子玉川といえば、玉川高島屋とライズという微妙に客層の違う百貨店があります。ライズは「ショッピングセンター」*2と自称しているので、一緒くたにして語るのはどうかと思いますが、コアコンセプトにはこんなことが書いてありまして、

プロジェクトをスタートさせるにあたり、当初「東京の将来を担う子どもたちを育む街」、すなわち未来の都市の理想的な姿を創るというビジョンによりデザインが始まりました。その中で、風景と人生を、現在から未来へと続く旅と捉えることで、「JOURNEY=旅」というコンセプトが生まれたのです。

むしろこの後の本題に近いので、百貨店とショッピングセンターの違いについてはあまり考慮せずに論を進めます。

 最近、蔦屋家電やBubby'sなどややハイソというかニューウェーブな感じの店が混じったテラスモールが同じライズの敷地内に出来たと思えば、高島屋陣地側ではロンハーマンが独立店舗としてリニューアル、お向かいには値段はちっともカジュアルじゃないカジュアルダイナーのBillsが開業したりして、いわゆる二子玉川再開発はほぼ完成したのかな、という印象です。

 そんなおしゃれ度の高い二子玉川に本社を構えるのが楽天というのが個人的には「やっちまったな」という感じではありますが、家族連れも大変多く訪れていて少子化をいっとき忘れられるような賑わいですし、行き交う人々の持ち物をチラ見する感じでは不景気風はどこへやら、とも思う次第。

 そんな環境で子ども連れで出かけるようになって改めて気づいた疑問がこれ。

 こども用品を上層階に置く理由はなぜか? 

 ライズは各フロアが「ファッション・雑貨」と記載されていてやや曖昧なのですが、4-5階あたりにこども向けのものがありまして、高島屋は5Fです。

 で、ベビーカーでお店に行くと大抵、エレベーターにすぐ乗れないんです。どちらの施設も「ベビーカー・車椅子優先」といった表示は複数台の一台に対して行われていますが、1Fから乗ろうとすると大抵は満員です。これは二子玉川駅を中央にして地下でつながっているという動線の問題でもあるのですが、むしろ目につくのは普通に立って歩けるだろうという人が満載で乗れないことが多いということです。で、結局どうするかというと、上りはエスカレーター使います。もちろん、エスカレーターには「ベビーカー禁止」と書いてありますので、何か事故を起こした場合の責任が伴うことは承知の上ですが、いつまでたっても目的地にたどり着けないストレスと、リスクを秤にかけて当然の帰結としてそうしています。下りはさすがにエレベーター待ちますが。

 自分の価値観と異なる事だけを理由にして民度が低い、という言い方はしたくありません。実際、私がベビーカーでエスカレーターを使っているのを見てそう感じる人もいるでしょうし。

 ただ、自分以外の人が優先されるべきであるということを認識している状態で、その人たちを目の前にして、降りたり、譲ったりすることが出来ない人たちが多勢である現実を見ていると、そういう印象を抱いてしまいます。自分が乗った階でのみ優先されるのではなく、あらゆる階の移動を通じてそのルールは適用されるのである、とか理屈っぽく説かなくても

  • 自分が乗っているカゴが満員だ
  • 途中の階でベビーカーや車椅子の方が待っていた
  • 私は歩けるので途中で降りて次のカゴを待つか、エスカレーターで行こう

ぐらいの感覚は普通に持っておきたい。

 百貨店のみなさんも、エレベーターの扉に「ベビーカー・車椅子優先」とか告知して安心しているようでは実際にサービスしているうちに入りません。誰をターゲットにするのかは百貨店さんの自由なので、1Fにこども用品を置くのが正解である、とは言いません。もちろん、化粧品コーナーが正解だとも思いませんが。ただ、なんで子ども用品を上の階に置いているのか、ということを自問しながら、ターゲットは誰か、そのために必要なサービスはどういうものか、ということを少し検討してみてはいかがかと。

 私のアイデアとしては、

  • エレベータガールも結構ですが、乗り場に係員を立たせて優先レーンを管理する

 です。駐車場の誘導に結構な人数を配置できるのですから、各階のエレベータ乗り場に一人くらい立たせることも検討されてしかるべきかと。

 顧客中心 (Customer Centric )に関しては以下の投稿でも言及しています。

takao-chitose.hatenablog.com

 百貨店などの流通は、ECに比べたら生身のお客さんが目の前で動いているさまを見ることができる訳です。リアルタイムデータ分析よりはるかに雄弁に真実を見せつけてくれる事象がそこかしこにある訳で、それを放置している限りは構造的な衰退は避けられないんじゃなかろうかと。

 今月下旬にこちらの業界の方に対して講演する機会があるので、直接訪ねてみて、その回答をこちらでまた共有してみたいと思っています。

 

 次の都知事にはぜひ「歩ける人は階段かエスカレーターを使う条例」とか策定していただきたい。そしたらファーストクラスで出張しても、、、それは許さないかな。

 まじめな話、こんな道徳レベルでオリンピック迎えたら世界に対して失礼ですぜ。中国人観光客のマナーの悪さとか罵っている場合じゃないから、なんて思ったりする。

*1:JIJI.COMより

*2:都内最大規模の都市再開発プロジェクトであり、街づくりは「旅」をコンセプトにしている

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