軽めの仕上がり (はてな編)

Curiosity is the most powerful thing you own.

店子がEC化して母屋が傾く?

■店子がEC化して母屋が傾く?

 今朝、目に止ったのはこのニュース。

toyokeizai.net

 昨年からIFIビジネス・スクール で講座を持たせてもらっている事、元々、23年前くらいに就職活動で第一志望が某スペシャリティストアだった(最終面接で玉砕) 事もあり、院生時代以来、久しぶりにファッション業界や流通全般に対する関心が自分の中で高まってきているのかも。

 記事の内容は、

  • ユニクロが今年2月下旬から全国120店舗(順次拡大)で本格的に始めたセミオーダージャケットについて、店頭レジでの注文・決済以外の場合は売上高としてテナントに報告しないというお知らせを出しました。
  • つまり、売上に連動する賃料の算出根拠に組み入れる金額が限定される事になります。会計的には、発生した場所を基準に売上計上するか、支払い方法を基準にするか、みたいな話。 
  • テナントとしては、売り場を起点として発生したであろう売上が完全に含まれていないので、賃料交渉において不利益を被るかもしれませんね。

 というのが論旨かと思います。

 店舗で予約してECで決済とか、コンビニ受け取りにしてそこで決済、なんて買い方が普通に出来る時代ですので 、こういった店子の動きが加速するとテナントは確かに大変。不動産業として考えていると、消費者の購買パターンの各側面 ( 知覚・検討・試用・購入・配送) が多様化しているので、「実物を確認する場」として重宝される割には水揚げは回ってこないという悪循環に陥りかねない、と。一昔前の「オンラインかオフラインか」といった段階より複雑になっている前提で、「地面を有効活用してもらい、結果として自らの収益も確保するには」という事を考えないとテナント業は本当に厳しいですね。

 一方で、当のアパレル業界におけるEC化比率は「多くの企業が10%前後」 (繊研plus 2014/02/27)という事で、データポイントはやや古いですが意外とコンサバ。想像するに、

  • ものの性格上、やはり手に取ってみたいという需要は根強い
  • 都市圏においてはさほど『距離的制約を解消する為のEC』といった感覚が無い
  • アパレル各社の事業構造がまだ転換途上

といったような要因もあるのかな、と。このデータのアップデートが欲しいところですが、同じ繊研のデータをもとにブランド別に丁寧に調べてらっしゃる方が。素敵です。

echack.hatenablog.com

■テナント業の課題 : ハブ&スポークからの脱却が鍵な気がする

 問題はテナント業側がこういったデータをしっかりメンテして、決算報告とにらめっこしながら新しい賃料テーブルを設計しているかどうか、また、ブランド経験の重要な場所である土地を握っている事を強みとして、消費者の生活導線にどれだけシンクロ出来るか、といった視点が必要ですね。って素人に言われなくてもわかっていると思いますが。

 繁華街の人通りは『産業集積』がもたらしているとも考えられますが 、ネットではそういった物理的な集積が存在しないので、人や情報の流れはリアル世界とは異なります。リアルの産業集積をデジタル世界に持ち込んだのがショッピングモールの原点で、楽天はそれを用いて成長しました。しかしそういった2000年前半みたいな方程式が 、今の時代にどこまで有効なのかは疑問です。

 かつて六本木のミッドタウンが開発される過程で、三井不動産はコンセプトに相応しいテナントをリストして順に取り込んでいったという話を聞いた事があります。街に吸引力があり、コンセプトが明確であればにぎわう見本だと思います。

 楽天の例もそうですが 、今のデジタルの世界では別の力学が働いていると私は考えています。先を行くブランドはデジタルを活用して個別に消費者のインサイドに橋頭保を打ち立てているように思います(例えばバーバリーなど)。

 そういった例からうかがえるのは、ハブ&スポーク的なメディアモデルは成り立たないのだろうな、と。今回のファッション業界に当てはめれば、ハブは百貨店やテナントの役割りです。 同様に、認知と購買の間を取り持つファッション媒体も機能としてはハブですが、こちらも雑誌受難の時代かつ「紙とデジタル」というメディアビジネスそのもののジレンマの中でブレイクスルーに苦しんでいる印象です。

 テナント業にとって賃料は固定的な収入に類すると思うのですが、動的な収益源をいかにして確立していくかで、こういった店子の動きにも左右されにくい体質になって行けるのではないでしょうか。

 

・追記というか自分への宿題

今回は記事をきっかけに流通の構造的な方まで入り込みそうになった。そのぐらい根深くて面白い問題なのだけど、本業じゃないこともあって具体的な解決のアイデアがまったく浮かばない。せっかく講座で流通系の方と接点が持てるのでじっくり聞いてみて、もう少し考えてみる事にする。