軽めの仕上がり (はてな編)

Curiosity is the most powerful thing you own.

ターゲティングの奥深さを再認識した話

ブログを書くのは久しぶり。
 昨年秋に転職したのですが、それによって生活環境が物理的に大きく変わり、その準備と実行でバタついていたらすっかり筆不精に。一度止まった習慣を復活させるのは結構エネルギーを使うものであるという事を再認識している次第。

 久しぶりなので看板に相応しく軽めにいきますが、今回は「ターゲティング」。そう、あのSTP*1でおなじみのターゲティングです。

最近のターゲティング

 ターゲティングはマーケティングマネジメントの中でいくとちょうど真ん中あたりで検討されるべきプロセスだと考えられます。(下図1)

図1:マーケティングマネジメントの概念

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  • セグメント = 市場を細分化して戦う場所を決める。
  • ターゲット = 具体的な束 (ある刺激に対して同じ反応をする層)を決める。
  • ポジションニング = 位置づけを決めてターゲットに踏み込む

といった感じで世のマーケターなら日常的に頭の中で考えていることだと思います。
 ではなんで今回、このターゲティングを改めて見直したかというと、日常的にマーケティング活動に従事していて、特にECやダイレクトマーケティングなどターゲットの反応をデジタル環境で毎日補足しながら試行を繰り返している人の中で実際に行われているのは以下の絵のような事になっているのではないか、思ったからです。

 

図2 最近のターゲティングってこの辺りに偏重してる気がする

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 この絵では、ターゲティングの段階ではある程度の共通性が期待される束である塊に対して、さらに類似性や相関性を別の因子も絡めて絞り込み、そこに4Pのプロモーションで行うようなポジショニングステートメントを多重にぶつけて「当たり」を見つける作業をしているのではないかと。
 現代のデジタルテクノロジーだからこそ可能な、一個人と薄皮一枚隔てたような至近距離まで近づいて球をぶつける事を高速に機械化しているのがデジタルマーケティングのひとつの側面だよな、と経験上思ってます。

 

近頃の経験

 私の考えるマーケターの大事な習慣の一つに「身銭を切って消費する」というものがあります。ここのポイントは別に実際に自腹を切るという事よりは「やってみる」という部分も含めて、生活者の視点で消費してみることが必要だぜ、という考え方。
 最近、ほんのひと月前に自動車を購入しました。既に一台、私の車があるので二台目です。購入理由は冒頭でも触れた転勤に伴う生活環境の変化で、奥様にも一台あった方が生活の利便性が向上すると判断したためです。


購買過程の再現

・ターゲットプロファイル
 さて、車そのものに関する購入者たる奥様のことを簡単にプロファイルすると以下のようになります。

図3 奥様の自動車に対する態度

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 そこそこ運転歴はある人です。ただ、都内の運転は道が分からない上に交通量も多いという事で敬遠していましたが、ひとたび地方都市に行けば余裕で運転しますし、アメリカに行けば別人のように鼻歌交じりにアクセル踏み込めます。本人曰く「広くてまっすぐだから」との事。
 ブランドに関しては概してドイツ勢の攻撃的かつおじさん風味なガンダム系の顔が好きでは無いようです。逆にまったく関心が無かったようですが、一度Volvoのショールームに連れて行ったら最近のVolvoの内装に一目ぼれ。「なんでVolvo買わないでAudi買ったの? 」と怒られたぐらいです。
 車に求めるものに関してはメーカーのマーケターでも容易に想像がつく範囲だと思いますので、特別、癖のある消費者ではありませんが、媒体接触という意味では、通常、車の広告を目にする界隈にはなかなか出没しないか、メカとしての車には関心が無いので広告そのものに反応しにくいのでメッセージを届けるのに一苦労しそうな感じです。

・候補となった車たち

そんな奥様の購買候補として絞られたのがこのあたり。

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 あれれ。「国産の軽自動車とか好きじゃないメルセデスブランドが入っていたりしてますけど?」って車に詳しい人ならなります。メーカー的には「同じカテゴリにしないでよ」という事もあるかもしれません。
 そうなんです。しょせん、関与度の低いカテゴリから選ぶ場合のブランド選好なんて消費者からしたら適当です。なので事前のプロファイルなんて大して当てにならない場合があるという事も肝に銘じておく必要があります。(必要ない、とは言いませんが)
 いずれにしても自社に都合の良いペルソナを磨きすぎた結果、消費者の不確実性の前にあえなく玉砕する事もあるよ、という話。こういう事があるので個人的には「ペルソナ」というものに対して懐疑的であります。

 

・購買の決め手

 さて、こうした候補の中から、地方でもディーラーがあってメンテしやすい、基本性能が優れている、といった要素を鑑みつつ私が推薦したモデルについて奥様が友人に相談してお墨付きをもらった上で、我が家はディーラーに向かいました。
 昼休みを兼ねた見積もり作成タイムを挟んで足掛け5時間くらい滞在した訳ですが、その日の内に購入にいたりました。
 ディーラーからすると、月末で台数が欲しい時にフラッと入ってきた(ように見える)家族連れが、その日の内に購入してくれたのですからラッキー。CV%でいったら100%みたいな話です。
 今回、モデルの選定に関して本人の関与度は低めでしたが、決め打ちでディーラーに行ったわけでもないので、結果について聞いてみたところ、彼女の回答がターゲティングの奥深さを再認識させるものでした。

  1. 担当の営業さんがとても誠実で熱心だった
  2. 試乗の時に自分が気にしている点を実地で検証してくれた (坂道発進とか)
  3. 月々の支払イメージを伝えただけなのだが、それを少しだけ下回る見積もりを用意してきたこと
  4. 当該モデルの良い点、癖のある点をちゃんと説明していたこと
まとめ

 上記の「決め手」の部分から読み取りたいのは、

  • 「おっさんやおばさんが若い営業にほだされてしょーもな」と言ってしまえば簡単ですが、40歳を過ぎてくると、こんな時代に一所懸命にセールスしている人柄を評価して「君から買いたいんやで」(誰だw) という気持ちも時には芽生えてきます。もちろん、一所懸命というのは単に「押しが強い」という意味では無く、そこそこ頭の回転は速いけど打算一色という感じがしなくて、自分が担当している商品が好きである事が伝わってくるような「お客さんとの間合いを作る能力」に優れている人、という意味です。別の言い方をすれば「こういう人は年を重ねてもそれなりに能力を伸ばしていくんだろうな」と感じられる人です。そういう営業さんに遇えた時って素直に嬉しかったりするもんです。
  • ディーラーに行くまでに接触はしているかもしれないけど購買者である奥様がアクションした広告はゼロです。候補になったブランドについてソーシャルメディアのフォローすらしていません。つまり、「自分の身の回りの詳しい人、信頼できる人に聞く」という行為でブランド選択を済ませています。関与度が低いのだからフォローしないのも当たり前の話です。これはマーケティングにおける重要な問いである「真の顧客は誰か」という事でもあります。ユーザーを取り巻くステイクホルダーに対して関係構築しておく事がユーザのカテゴリ関与度が低い場合にはPOPの瞬間に役に立つ事がある、という事を今回の購買パターンは教えてくれます。
  • そして今一つ重要な事は、「店頭に立つ人こそ重要なメディアであり、ブランドの体現者・伝道者である」という点です。お客様と相対する空間での経験が購買そのものと、ブランドに対する好感を後押しすることは間違いありません。これは広告で買えるものでは無く、企業が従業員の教育と顧客接点となる空間に対する投資を惜しまない事が必要であるという事を示唆しています。

 

買っちゃいましたw 小さいけどキビキビしていていい車

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*1:Segmentation, Targetin Positioningの頭文字です念のため